はじめに
2010年7月14日にリリースされたDABO, ANARCHY & KREVA「I REP」は、日本のヒップホップシーンにおいて異色かつ歴史的なコラボレーションとして記録される楽曲です。千葉出身のDABO、京都出身のANARCHY、東京出身のKREVA——地域も世代もスタイルも異なる三人のラッパーが、RHYMESTER「ONCE AGAIN」を手掛けたことで知られる名プロデューサーBACH LOGICのトラックの上で一つになりました。
この楽曲はDABOの5枚目のオリジナルアルバム『HI-FIVE』の8曲目に収録され、マンハッタン・レコードからのデジタルシングルとしてもリリースされています。
DABO – 正統派スキルの体現者
DABO(ダボ、1975年1月6日生まれ)は千葉県出身のラッパーで、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの主要メンバーとしても知られています。本名は芦田大輔で、家族から「ダイ坊」と呼ばれていたことが名前の由来です。
17歳でラップを始め、1995年頃にDJ HAZIME、SUIKEN、KEI-BOMBらと「CHANNEL5」を結成。2000年にはNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのメンバーとしてアルバムをリリースし、15万枚以上のセールスを記録する大ヒットとなりました。
2001年にはDef Jam Japanの契約第1号アーティストとして「拍手喝采」でメジャーデビュー。正統派に機転の利いたボキャブラリー豊かなラップスタイルで、日本を代表するラップ巧者として確固たる地位を築いています。
ANARCHY – ゲットーが生んだ成り上がりの象徴
ANARCHY(アナーキー、本名:北岡健太、1981年生まれ)は京都府伏見区向島団地出身のラッパーです。父子家庭で育ち、治安が悪いことで知られる低所得者向け市営団地で幼少期を過ごしました。
16歳で暴走族の総長になり、日本国内で3例目となる決闘罪で逮捕され、少年院で1年間を過ごしました。その少年院でテレビ番組を通じてZEEBRAを知り、本格的にラッパーを志すようになります。
2000年にRUFF NECKを結成し、2006年には1stアルバム『Rob The World』をリリース。インディーズアルバムとしては異例の好セールスを記録し、『ミュージック・マガジン』や『Riddim』誌で年間ベストアルバムに選出されました。2014年にはavexからメジャーデビューを果たしています。
KREVA – メジャーシーンのトップランナー
KREVA(クレバ)はKICK THE CAN CREWのメンバーとして2000年代初頭に大ブレイクし、日本のヒップホップをメインストリームに押し上げた立役者の一人です。ソロとしても数々のヒット曲を生み出し、高い技術とポップセンスを兼ね備えたラッパーとして幅広い支持を得ています。
BACH LOGIC – 伝説のプロデューサー
BACH LOGIC(バッハロジック)は、RHYMESTERの名曲「ONCE AGAIN」をプロデュースしたことで知られる日本を代表するトラックメイカーです。また、SEEDAの名盤『花と雨』の多くの楽曲もプロデュースしており、2000年代の日本語ラップシーンを支えた重要人物です。
「I REP」のトラックは、壮大な広がりを魅せるシンセ使いが特徴で、三人のラッパーそれぞれのフィールドを基盤としたフローが見事に混合した仕上がりとなっています。
「I REP」が持つ意味
「I REP」というタイトルは、「I REPRESENT(私は代表する)」の略で、ヒップホップにおける重要なコンセプトです。自分が何を代表するのか——地元、クルー、スタイル、そして自分自身。
DABOは千葉とNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDを、ANARCHYは京都・向島団地とRUFF NECKを、KREVAは東京とKICK THE CAN CREWを、それぞれ代表しながらも、三人全員が「日本のヒップホップ」を代表する存在として、この楽曲で共鳴しています。
異色のタッグが話題に
DABOの公式ブログでも「異色のタッグで話題となった本作」と紹介されているように、この三人の組み合わせは当時のシーンに大きな衝撃を与えました。
NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDやChannel 5といったアンダーグラウンドシーンを代表するDABO、ゲットー出身で生々しいリアリティを武器とするANARCHY、そしてメジャーシーンで圧倒的な成功を収めたKREVA——立ち位置も世代もスタイルも異なる三人が、BACH LOGICというシーンの重鎮プロデューサーのトラックで一つになった意義は計り知れません。
アルバム『HI-FIVE』での位置づけ
「I REP」はDABOの5枚目のオリジナルアルバム『HI-FIVE』(2010年11月3日リリース)の8曲目に収録されています。このアルバムは4年ぶりのリリースとなり、全13曲で構成されています。
アルバムにはRYO the SKYWALKER、Kj from Dragon Ash、SUIKEN、K-BOMBなど豪華なフィーチャリングアーティストが参加していますが、中でも「I REP」はANARCHYとKREVAという強力なラッパーを迎えたことで、アルバムのハイライトの一つとなっています。
楽曲の構成とスタイル
「I REP」の魅力は、三人三様のラップスタイルが見事に融合している点にあります。DABOの機転の利いたボキャブラリー豊かなフロー、ANARCHYの力強くリアルなデリバリー、そしてKREVAの洗練された技術——それぞれが個性を発揮しながらも、BACH LOGICのトラックの上で一つのまとまりを見せています。
時間は4分02秒で、壮大なシンセサウンドとヘヴィなビートが三人のラップを包み込み、まさに「日本語ラップ・アンセム盤」と呼ぶにふさわしい仕上がりとなっています。
2010年というタイミング
2010年は、日本のヒップホップシーンにとって重要な年でした。2000年代にメインストリームで大きな成功を収めたアーティストたちと、アンダーグラウンドで実力を磨いてきたラッパーたちが、徐々に交わり始めた時期です。
「I REP」は、そんな時代の空気を象徴する楽曲の一つと言えるでしょう。異なるバックグラウンドを持つラッパーたちが、互いをリスペクトし合いながら一つの楽曲を作り上げる——それこそがヒップホップの本質です。
リリース形態と反響
「I REP」は、アルバム収録曲としてだけでなく、デジタルシングルとしてもリリースされました。アナログ盤も製造され、1ST PRESSにはアカペラバージョンも収録されるなど、本格的なヒップホップリリースとしての体裁が整えられました。
2014年にはManhattan Recordsのコンピレーション「Manhattan Records Presents “The Hits” (Japanese Hip Hop Edition)」にも収録され、日本語ラップの名曲として認知されています。
まとめ
DABO, ANARCHY & KREVA「I REP」は、BACH LOGICがプロデュースした日本語ラップの金字塔です。千葉のDABO、京都のANARCHY、東京のKREVA——三つの地域、三つの世代、三つのスタイルが交わり、一つの「日本のヒップホップ」を代表する楽曲が誕生しました。
異色のタッグでありながら、違和感なく融合する三人のラップ。それを支えるBACH LOGICの壮大なプロダクション。「I REP」は、2010年代の日本語ラップシーンを象徴する重要な一曲として、今も多くのヒップホップファンに愛され続けています。
楽曲情報
- タイトル: I REP
- アーティスト: DABO, ANARCHY, KREVA
- プロデュース: BACH LOGIC
- リリース日: 2010年7月14日(デジタルシングル)
- 収録アルバム: DABO『HI-FIVE』(2010年11月3日)
- トラック番号: 8曲目
- 時間: 4分02秒
- レーベル: Manhattan Recordings



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