Lil Rob「I Know How It Feels」

はじめに

2004年にリリースされたLil Robのアルバム『Neighborhood Music』に収録された「I Know How It Feels」は、サンディエゴが生んだChicanoラップの伝説が、ストリートで生きる者たちの感情を率直に表現した楽曲です。この曲は、Lil Robの音楽性とメッセージが凝縮された重要な作品として、多くのリスナーに愛され続けています。

Lil Robとは

本名: Roberto L. Flores
生年月日: 1975年9月21日
出身地: カリフォルニア州サンディエゴ
別名: Ese 1218

Lil Robは、カリフォルニア州ソラナビーチのLa Colonia de Eden Gardensという、100年以上の歴史を持つメキシコ系アメリカ人コミュニティで育ちました。このコミュニティは深い文化的歴史を持ち、彼の音楽的才能を育んだ場所でもあります。

波乱に満ちた若き日々

1992年、Lil Robは「Lil Rob & the Brown Crowd」という名前でパフォーマンスを開始し、「Oh, What a Night in the 619」という楽曲をレコーディング。これが彼の音楽キャリアの始まりとなりました。

しかし、1994年、18歳の時に銃撃事件に遭い、顎を撃たれて顎が粉砕される重傷を負いました。この経験は彼の人生観を大きく変え、後にギャングとの関わりを断つきっかけとなります。

「1218」の意味

Lil Robの両腕にタトゥーとして刻まれている「1218」という数字は、アルファベットの12番目と18番目の文字、つまり「L」と「R」を表しており、彼のステージネーム「Lil Rob」のイニシャルを数値化したものです。この数字は、彼がグラフィティアーティストとして活動していた時代から使用していました。

Chicanoラップのパイオニア

Lil Robは、Kid Frost、Spanish Fly、ALT、Proper Dos、A Lighter Shade of Brownといったアーティストと並ぶ、Chicanoラップの初期の波を形成したアーティストの一人です。

Chicanoラップとは

Chicanoラップは、メキシコ系アメリカ人によって演奏・創作されるラップとヒップホップのサブジャンルで、英語とスペイン語の詩的な韻を通じて表現されます。世界でも数少ない、2つの言語で特に創作・演奏される音楽ジャンルの一つです。

Lil Robの独自性

Lil Robはオールディーズをリミックスするという独自のスタイルを確立しました。オールディーズは南カリフォルニアのChicano文化において何十年も人気があり、彼はこの伝統を自身の音楽に取り入れました。「Natural High」「I Remember」「Linda Mujer」「No Soy de Ti」「Brought Up In A Small Neighborhood」など、多くの楽曲でオールディーズをサンプリングしており、自らを「唯一無二のOldie Man」と称しています。

アルバム『Neighborhood Music』

『Neighborhood Music』は2004年2月17日にリリースされたLil Robのスタジオアルバムで、全13曲で構成されています。このアルバムは彼のキャリアにおいて重要な位置を占める作品です。

トラックリスト

Intro
I’m Still Riding Like That
Neighborhood Music（タイトル曲）
Can We Ride
Back Up
Bluffin’
Just One of Your Kisses (Un Besito)
I Know How It Feels
It’s My Life
What Can I Do
We Don’t Play
1218
Boo Hoo Hoo

「I Know How It Feels」はアルバムの8曲目に収録されており、3分49秒（3分46秒のバージョンもあり）の楽曲です。

アルバムのコンセプト

『Neighborhood Music』というタイトルが示すように、このアルバムはLil Robの地元、La Colonia de Eden Gardensの日常や文化、そこで生きる人々の感情を描いた作品です。ストリートのリアリティと、コミュニティへの愛情が全編を通じて表現されています。

「I Know How It Feels」の世界観

ストリートの感情を代弁する

「I Know How It Feels」というタイトルが示すように、この楽曲は「その気持ち、わかるよ」というメッセージを伝えています。ストリートで生きる者たちが経験する様々な感情——喜び、痛み、苦悩、希望——を、Lil Robは自身の経験を通じて歌い上げています。

共感と連帯

Chicanoコミュニティが直面する困難、差別、経済的な苦境、そして家族や仲間との絆。これらのテーマは、Lil Robの多くの楽曲に共通していますが、「I Know How It Feels」では特に、リスナーとの共感を重視した表現がなされています。

音楽的特徴

Lil Robの特徴は、スムーズなフロウと明瞭な発音です。英語のようにスムーズでありながら、スペイン語の表現も織り交ぜる彼のスタイルは、バイリンガル・バイカルチュラルなChicanoコミュニティのアイデンティティを体現しています。

2004年という時代背景

Low Profile Recordsからの独立

Lil Robは2002年、Low Profile Recordsとの金銭的な問題を理由にレーベルを離れ、Upstairs Recordsと契約しました。Low Profile Recordsでは、レーベルオーナーのRoyal Tがバーコードを操作し、Lil Robのアルバムの売上を不正に横取りしていたという問題がありました。Lil Robのマネージャーによれば、Lil Robは100万ドル以上のCDを売り上げたにもかかわらず、1セントも受け取っていなかったとされています。

『Neighborhood Music』は、このようなレーベルとの確執を経た後の作品であり、アルバムには「Bluffin’」（Royal Tへのディス）、「Boo Hoo Hoo」（Royal TとMr. Shadowへのディス）といった、確執を反映した楽曲も収録されています。

独立した表現

レーベルの制約から解放されたLil Robは、『Neighborhood Music』で自身のアーティスティックビジョンをより自由に表現することができました。「I Know How It Feels」のような、内省的で感情的な楽曲もその一つです。

2005年の大ブレイク前夜

『Neighborhood Music』のリリースから1年後の2005年、Lil Robは『Twelve Eighteen, Pt. 1』をリリースし、シングル「Summer Nights」で初めて全国的なエアプレイを獲得します。

「Summer Nights」はBillboard Hot 100で36位、Hot Rap Tracksチャートで13位を記録し、Lil Robのキャリアにおける最大のヒット曲となりました。続くシングル「Bring Out the Freak in You」もHot 100で85位、Hot Rap Tracksで20位を記録しました。

『Neighborhood Music』は、この大ブレイク前夜の作品であり、「I Know How It Feels」は、まだアンダーグラウンドシーンで活動していたLil Robの、純粋で率直な表現が詰まった楽曲と言えます。

Chicanoコミュニティへの貢献

文化的アイデンティティの表現

Lil Robの音楽は、メキシコ系アメリカ人としてのアイデンティティを誇り高く表現しています。ギャングとの関わりを断った後、彼は「Brown Pride」（メキシコ系としての誇り）と、すべてのChicanoの団結を呼びかけるようになりました。

コミュニティの代弁者

La Colonia de Eden Gardensという、100年以上の歴史を持つコミュニティで育ったLil Robは、その文化と経験を音楽を通じて世界に発信しています。「I Know How It Feels」のような楽曲は、同じような境遇にいる人々に「君だけじゃない」というメッセージを送っているのです。

その後のキャリア

着実な活動

2005年の『Twelve Eighteen, Pt. 1』の成功後、2008年には『Twelve Eighteen, Pt. 2』（シングル「Let Me Come Back」featuring Fingazz収録）、2009年には『Love & Hate』、2014年には9枚目のアルバム『R.I.P. Recording In Progress』をリリースするなど、精力的に活動を続けました。

9年ぶりの復帰

2014年から2023年まで、Lil Robは約9年間アルバムをリリースしませんでしたが、2023年11月に『All To The Bueno』をリリースし、復活を果たしました。Fingazがプロデュースしたこのアルバムは、ウエストコーストのローライダーラップの真骨頂を示す10曲で構成されており、30年のキャリアを通じてChicanoの経験を祝福し続けるLil Robの姿勢が反映されています。

コラボレーション

Lil Robは数多くのアーティストとコラボレーションしてきました：

Chicano系: Mr. Shadow、Mr. Sancho、OG Spanish Fly、SPM、Baby Bash、MC Magic
メインストリーム: E-40、Ice Cube、Kid Frost、Paul Wall、The Game、Pitbull、N.O.R.E、Bizzy Bone、Fat Joe、Flo Rida、Cuco

これらのコラボレーションは、Lil RobがChicanoラップシーンだけでなく、メインストリームのヒップホップシーンでも尊敬される存在であることを示しています。

「I Know How It Feels」が持つ意義

感情の橋渡し

「I Know How It Feels」は、アーティストとリスナーの間の感情的な橋渡しをする楽曲です。Lil Robは自身の経験を通じて、同じような感情を抱えるリスナーに共感を示しています。

Chicanoラップの本質

この楽曲は、Chicanoラップの本質——コミュニティへの愛、ストリートのリアリティ、文化的アイデンティティへの誇り——を体現しています。派手なビートや攻撃的なリリックではなく、感情に訴えかける誠実な表現が、多くのリスナーの心を掴んでいます。

タイムレスな魅力

2004年のリリースから20年以上が経過した今でも、「I Know How It Feels」は色褪せることなく、新しい世代のリスナーにも届き続けています。それは、この楽曲が描く感情が普遍的であり、時代を超えて共感できるものだからです。

Lil Robの現在

2024年現在、Lil Robは49歳となりましたが、音楽業界での影響力は衰えていません：

Spotify: 月間リスナー491,000人
Instagram: フォロワー476,000人
Facebook: フォロワー1,100,000人
YouTube: チャンネル登録者179,000人

これらの数字は、彼が30年以上のキャリアを通じて築いてきた、強固なファンベースを示しています。

「Chicanoラップのジェイ・Z」

Bootleg Kev Showのインタビューで、Lil Robは「Chicanoラップのジェイ・Z」と評されたことについてコメントしています。この評価は、彼がChicanoラップシーンにおいて果たしてきた重要な役割と、ビジネス的な成功を反映したものです。

まとめ

Lil Rob「I Know How It Feels」は、サンディエゴのLa Colonia de Eden Gardensという、歴史あるメキシコ系アメリカ人コミュニティから生まれた、感情豊かな楽曲です。

2004年のアルバム『Neighborhood Music』に収録されたこの曲は、ストリートで生きる者たちの感情を率直に表現し、「その気持ち、わかるよ」というメッセージを通じて、多くのリスナーとの共感を生み出しています。

18歳で銃撃され顎を粉砕されるという経験を経て、ギャングとの関わりを断ち、音楽で成功を収めたLil Rob。彼の人生そのものが、困難を乗り越える希望の物語であり、「I Know How It Feels」にはその経験から生まれた深い共感力が込められています。

Chicanoラップのパイオニアとして、オールディーズのリミックスという独自のスタイルを確立し、30年以上にわたってコミュニティの声を代弁し続けてきたLil Rob。「I Know How It Feels」は、彼の音楽的才能と、人々に寄り添う温かい心が結実した名曲として、今も多くの人々の心に響き続けています。