Benjazzy「NOTFORSALE」

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はじめに

2024年12月27日にリリースされたBenjazzyの1stアルバム『UNTITLED』。その4曲目に収録された「NOTFORSALE」は、ZOT on the WAVEとdubby bunnyがプロデュースを手がけた、Benjazzyの哲学が凝縮された楽曲です。

タイトルの「NOT FOR SALE」——「非売品」「売り物ではない」という意味のこのフレーズには、どれだけ金を積まれようとも、自分のスタイルや信念を売り渡さないという強い意志が込められています。

「NOTFORSALE」というタイトルの意味

「売らない」という決意

音楽業界、特にヒップホップシーンにおいて、「売れる」ことと「売る」ことは全く別の概念です。

  • 「売れる」 = 成功すること、人気を得ること
  • 「売る」 = 自分の信念やスタイルを妥協すること、魂を売ること

Benjazzyがこの楽曲で宣言しているのは、「俺は売れたいが、自分を売るつもりはない」という姿勢です。

商業主義への抵抗

音楽業界では、商業的成功のために本来の自分を変えることを求められることがあります。レーベルやプロデューサーの意向、市場のニーズに合わせてスタイルを変更する——これは「魂を売る」行為と見なされます。

「NOTFORSALE」というタイトルは、そのような圧力に対する明確な拒否の意思表示なのです。

歌詞徹底解説

大人の勝手な解釈への反発

楽曲の冒頭では、「俺等の人生を勝手に大人が…」というフレーズで始まります。これは、若者の生き方や表現を、大人たちが勝手に解釈し、評価し、時には搾取することへの反発を示しています。

BAD HOPとして活動してきたBenjazzyたちは、川崎という特殊な環境で育ち、その経験を音楽で表現してきました。しかし、その表現が時に「過激すぎる」「商業的でない」と評価されたり、逆に「売り物」として消費されたりすることに対する違和感が、この歌詞には込められています。

「1番自分自身の価値 分かってる」

「1番自分自身の価値 分かってる」

この一節は、Benjazzyの自己認識の高さを示しています。他人が自分の価値を決めるのではなく、自分自身が最も自分の価値を理解している——この確信が、「NOTFORSALE」という姿勢を支えています。

「ありのままでRich」

「ありのままでRich」

「Rich」という言葉は、単に経済的な豊かさだけを意味しません。ここでは、ありのままの自分でいることこそが真の豊かさである、という哲学が表現されています。

偽りの自分を演じて得る成功よりも、本当の自分でいることの方が価値がある——これは前作「UNTITLED」で歌われた「名無し」のエキストラではなく、自分らしく生きることの重要性と通じるテーマです。

「カッコつけず光るPlane Jean」

「カッコつけず光るPlane Jean な俺達はNot For Sale」

「Plane Jean」——つまり飾り気のないジーンズ。高級ブランドや派手な装飾ではなく、シンプルでありのままの姿でいることが、かえって輝いている。

この表現には、表面的なカッコよさではなく、内面から滲み出る本物のカッコよさを追求する姿勢が示されています。

BAD HOPは常にストリートのリアルを表現してきました。高級ブランドで着飾ることではなく、自分たちのスタイルを貫くこと——それこそが真のカッコよさだという信念が、この歌詞には込められています。

「例え幾ら積まれようが譲る気はねぇ」

「例え幾ら積まれようが譲る気はねぇ」

音楽業界では、金銭的な成功と引き換えに、アーティストがスタイルを変えることを求められることがあります。レコード会社が「もっと売れる曲を作ってほしい」「もっと一般受けするスタイルにしてほしい」と要求する——これは珍しいことではありません。

しかし、Benjazzyは「どれだけ金を積まれても譲らない」と明言します。これは、BAD HOPが一貫して貫いてきた姿勢でもあります。

「一点もんでプレ値のプライスレス」

「一点もんでプレ値のプライスレス な俺達はNot For Sale」

この一節は、非常に巧妙な表現です。

  • 「一点もん」 = 世界に一つしかない、唯一無二の存在
  • 「プレ値」 = プレミアム価格、通常よりも高い価値
  • 「プライスレス」 = 値段がつけられないほど貴重

つまり、自分たちは唯一無二の存在であり、その価値はプレミアム級、しかも値段がつけられないほど貴重だ——だからこそ「売り物ではない」という論理展開になっています。

この表現には、自分たちの価値を正当に評価しながらも、それでも「売らない」という矛盾した(しかし芸術家として正しい)姿勢が示されています。

ZOT on the WAVE & dubby bunnyのプロダクション

KOWICHI主宰「SELF MADE」所属のプロデューサー

「NOTFORSALE」のトラックを制作したZOT on the WAVEとdubby bunnyは、共にKOWICHI主宰のレーベル「SELF MADE」所属のプロデューサーです。

「SELF MADE」というレーベル名自体が「自分で作り上げた」という意味であり、まさに「NOTFORSALE」のテーマと一致しています。

トラックの特徴

ZOT on the WAVEとdubby bunnyが作り出すビートは、重厚でありながらもメロディアスで、Benjazzyの強い意志を表現するリリックを効果的に引き立てています。

この2人のプロデューサーは、YZERRの楽曲「TEIHEN」なども手がけており、BAD HOPとも深い関係性があります。彼らのビートには、川崎のストリートの空気感が反映されているのです。

「NOTFORSALE」のテーマ:アイデンティティの保持

商業化の波の中で

音楽業界は常に商業化の波にさらされています。特にヒップホップは、元々ストリートのカルチャーとして生まれたものが、メインストリームに進出するにつれて、本来の姿を失っていくという歴史を持っています。

Benjazzyが「NOTFORSALE」で訴えているのは、そのような商業化の波の中でも、自分のアイデンティティを保ち続けることの重要性です。

BAD HOP解散後の決意

2024年2月に東京ドームで解散したBAD HOP。グループとしての活動が終わり、個人として歩み始めるBenjazzyにとって、「NOTFORSALE」は新たな決意表明でもあります。

グループの看板がなくなった今、より大きな誘惑や圧力に直面する可能性があります。レコード会社が「BAD HOPのBenjazzyだから売れる」と商業的に利用しようとするかもしれません。

しかし、Benjazzyは「俺は売り物じゃない」と宣言します。BAD HOPのBenjazzyではなく、一人のラッパーとしてのBenjazzyが、ありのままの自分でいることを選ぶのです。

他の楽曲との関連性

アルバム全体を通じて、Benjazzyは一貫したメッセージを発信しています:

  • 「UNTITLED」(表題曲) – 名無しのエキストラではなく、主役として生きる
  • 「NOTFORSALE」 – 自分を売らず、ありのままでいる
  • 「I & I」 – 自分自身との対話
  • 「NUMB」 – 成功の後の虚無感と自己確認

これらの楽曲は、すべて「本物であること」「自分らしくいること」という共通のテーマで結ばれています。

「ありのまま」の哲学

飾らない美学

「NOTFORSALE」の歌詞には、「ありのまま」という言葉が登場します。これはBenjazzyの美学の核心です。

ヒップホップカルチャーでは、しばしば高級ブランドや贅沢なライフスタイルが「成功」の象徴として描かれます。しかし、Benjazzyが追求するのは、そのような表面的な成功ではなく、「ありのままの自分」でいることの価値です。

「Plane Jean」が光る理由

前述の「カッコつけず光るPlane Jean」という表現は、この哲学を完璧に体現しています。

高級ブランドのジーンズではなく、普通のジーンズ。しかし、それを着ている人間の内面が光っているから、そのジーンズも輝いて見える——これは、外見ではなく内面こそが重要だというメッセージです。

現代社会への問いかけ

SNS時代の「売る」という行為

現代社会、特にSNS時代において、「自分を売る」という行為は日常化しています。

  • インフルエンサーは自分のライフスタイルを商品として売る
  • ラッパーはイメージを作り上げて売る
  • 誰もが「いいね」を求めて自分を演出する

「NOTFORSALE」は、このような現代社会に対する痛烈な批判でもあります。

本物と偽物の境界線

ヒップホップシーンにおいて、「リアル」であることは最も重要な価値観の一つです。しかし、何が「リアル」で何が「偽物」なのか——その境界線は曖昧になっています。

Benjazzyが「NOTFORSALE」で示しているのは、明確な基準です:

  • 本物 = 自分を売らず、ありのままでいる
  • 偽物 = 金や人気のために自分を変える

「スキルモンスター」としての自信

譲れない理由

Benjazzyが「例え幾ら積まれようが譲る気はねぇ」と言い切れるのは、自分のスキルに絶対的な自信があるからです。

呂布カルマやSEEDAといった実力派ラッパーからも「スキルモンスター」と称される彼にとって、金で買えるものなど取るに足りません。彼が持っているのは、金では買えない才能とスキルなのです。

「一点もん」としてのプライド

「一点もんでプレ値のプライスレス」——この表現には、Benjazzyのプライドが凝縮されています。

世界に一つしかない自分。他の誰とも交換不可能な存在。だからこそ、その価値はプライスレス(値段がつけられない)であり、同時にNOT FOR SALE(売り物ではない)なのです。

BAD HOPの遺産を引き継ぐ

川崎のリアルを貫く

BAD HOPは常に川崎のリアルを歌ってきました。美化せず、誇張せず、ありのままのストリートを表現する——その姿勢は、時に「過激すぎる」と批判されることもありましたが、彼らは決してスタイルを変えませんでした。

「NOTFORSALE」には、このBAD HOPの精神が引き継がれています。

仲間との絆

Benjazzyは、BAD HOP解散後もメンバーへのリスペクトを忘れていません。「NOTFORSALE」の「俺達は」という表現には、単数ではなく複数形——つまり仲間たちとの絆が込められています。

一人になっても、仲間たちと共有してきた価値観を売ることはない——それがBenjazzyの姿勢です。

結婚と第一子誕生のタイミング

人生の転換点

2024年5月に結婚し、11月には第一子が誕生したBenjazzy。このアルバムは、彼の人生において大きな転換点でリリースされました。

家族を持つということは、より大きな経済的責任を負うということです。「金のために妥協する」誘惑は、独身時代よりもはるかに大きくなるでしょう。

しかし、だからこそ「NOTFORSALE」というメッセージは重みを持ちます。家族を養うためであっても、自分を売ることはしない——この決意は、父親としての新たな覚悟を示しているのです。

子供に見せる背中

第一子「綴人(ていと)」君に、父親としてどんな背中を見せるのか。「NOTFORSALE」は、息子への最初のメッセージでもあるかもしれません。

「お前の父親は、どんな誘惑にも負けず、自分のスタイルを貫いた」——そう誇れるような生き方をする。それがBenjazzyの選択です。

まとめ:魂を売らない生き方

Benjazzy「NOTFORSALE」は、自分を売らず、ありのままの自分でいることの価値を歌った楽曲です。

ZOT on the WAVEとdubby bunnyがプロデュースしたトラックに乗せて、Benjazzyは明確に宣言します:

  • 自分の価値は自分が一番わかっている
  • ありのままでいることこそが真の豊かさ
  • どれだけ金を積まれても、自分を売る気はない
  • 自分は唯一無二の存在であり、値段がつけられない

この楽曲は、BAD HOP解散後、新たな一歩を踏み出すBenjazzyの決意表明であり、同時に結婚し父親となった彼の、家族への誓いでもあります。

商業主義が蔓延する音楽業界において、「NOTFORSALE」という姿勢を貫くことは容易ではありません。しかし、真のアーティストとして、真のヒップホップMCとして、Benjazzyは自分のスタイルを売ることを拒否します。

「カッコつけず光るPlane Jean」——飾り気のないジーンズが輝くのは、それを着ている人間の内面が本物だからです。

アルバム『UNTITLED』の4曲目に配置されたこの楽曲は、「名無し」の存在から脱却し、自分らしいタイトルをつける過程において、「どのような方法で」生きるかを示す重要な道標となっています。

2024年12月27日、Benjazzyは世界に向けて宣言しました:「俺は売り物じゃない」と。

この宣言は、すべてのアーティスト、そしてすべての人々への問いかけでもあります。あなたは、自分を売りますか?それとも、ありのままの自分でいますか?

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