SCARS「YOU ALREADY KNOW」- STICKYが刻んだストリートの真実

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はじめに

SCARSの1stアルバム『THE ALBUM』の4曲目に収録されている「YOU ALREADY KNOW」は、2021年に逝去したSTICKYが単独でリリックを書き上げた楽曲です。ストリートの厳しい現実と、そこに生きる者の哲学を率直に表現したこの曲は、STICKYというラッパーの本質を最もよく示す代表曲の一つとして知られています。

楽曲の基本情報

クレジット情報

  • リリックス(作詞): STICKY
  • プロデューサー: tkc
  • 収録アルバム: 『THE ALBUM』(2006年)
  • トラック番号: 4曲目

この楽曲は、STICKYが単独でリリックを担当した作品であり、彼の世界観とスタイルが凝縮された重要な楽曲です。

アルバムにおける位置づけ

BESのソロ曲「1 Step, 2 Step」に続いて、STICKYのソロ曲「YOU ALREADY KNOW」が配置されることで、アルバム前半において各メンバーの個性を際立たせる構成となっています。BESが前向きなエネルギーを示す一方で、STICKYはよりダークでリアルなストリートの真実を描き出しています。

STICKYというラッパー

STICKYは、A-THUGの幼馴染としてSCARSに加わったラッパーで、メンバーの中でも一際クールに冷めた視点で、淡々と、世の中にツバを吐くように言葉をスピットするスタイルが支持されていました。

STICKYの特徴

  • 聴き取りやすいラップ: 意味がハッキリと聴き取りやすく、耳に残るラップスタイル
  • 内面描写の深さ: 不安や苦悩を率直に表現する姿勢
  • 繊細なリリック: 不器用だが繊細な言葉選びで多くのリスナーの心を掴んだ

「YOU ALREADY KNOW」のテーマ

この楽曲のタイトル「YOU ALREADY KNOW(お前はもう知っているだろう)」は、ストリートで生きる者たちの間で暗黙の了解となっている厳しいルールや現実を指しています。

追悼記事では、この曲の一節が以下のように引用されています:「薄汚ねえ金ポケットの中 血で汚れたイエローティンブーツ ストリート暗黙のルール 文無しになるか金持ちになるか、結局は二つにひとつ」

これはストリートで生きる者が直面する究極の選択と、そこに漂う緊張感を見事に表現しています。華やかさの裏にある血と汗、そして常に存在する危険。それらを知っている者同士だからこそ分かち合える真実がここにあります。

SCARSの「弱さ」の革命とSTICKY

SCARSが日本のヒップホップシーンにもたらした最大の革新は、「弱さや繊細な内面を包み隠さず吐露した」点にありました。その革命を最も体現していたのがSTICKYです。

STICKYのスタンスの独自性

他のメンバーが多面的なトピックを綴る中の一つの選択肢として「苦悩を見せる曲」というオプションを持っているのに対して、STICKYはこの苦悩こそがスタンスのベースになっていました。

  • 苦悩を抱えている「が光を見据える」曲
  • 苦悩を抱えている「ので絶望する」曲
  • 苦悩を抱えている「が強さを見せる」曲

STICKYのラップの土台には常に苦悩があり、そこから様々な感情や姿勢が生まれていました。ハスラーとしての苦しみや悩み、その上で光を示して見せる──この「SCARSの革命」を濃縮・抽出した存在がSTICKYだったのです。

プロデューサーtkcについて

「YOU ALREADY KNOW」のプロデュースを手がけたのはtkcです。『THE ALBUM』では、I-DeAがトータルプロデュースを担当していますが、各楽曲には異なるビートメイカーが参加しており、tkcもその一人として貢献しています。

tkcのビートは、STICKYの冷めた視点と淡々としたスタイルを引き立て、ストリートの緊張感を音で表現することに成功しています。

「YOU ALREADY KNOW」の意義

この楽曲は、単なるハスリングラップを超えて、ストリートで生きる者たちの哲学書とも言える内容を持っています。

ストリートの暗黙のルール

「YOU ALREADY KNOW」というタイトルが示すように、この曲はストリートで生きる者たちの間で既に共有されている真実について語っています。説明する必要のない、誰もが知っている厳しい現実。それを改めて言葉にすることで、STICKYは自分たちのアイデンティティと覚悟を示しています。

二者択一の世界

「文無しになるか金持ちになるか、結局は二つにひとつ」というフレーズが示すように、ストリートには中間地点はありません。この極端な二元論こそが、彼らが生きる世界の現実であり、その緊張感の中で日々を生き抜く姿を描いています。

STICKYの逝去と遺産

2021年1月13日、STICKYは逝去しました。この訃報は日本のヒップホップシーンに大きな衝撃を与えました。

メンバーからの追悼

A-THUGは自身のYouTubeチャンネルで追悼のメッセージを発表。幼稚園からの友人に対して冥福を祈りました。

SEEDAは2ショットの写真と共に「シャイで男気がある 俺のHomie」と追悼のメッセージを投稿。

bay4kは2020年12月に行われたSCARSのライブのダイジェストムービーを載せ、「これがあいつとの最後の夜になった。楽しく話せて心地良い夜だった」と振り返りました。

同郷・川崎のラッパーFUNIは、「不器用で繊細なリリックにいつも助けられてました」とツイート。STICKYの子供に会ったら「君のお父さんは宇宙一のラッパーだったと伝えます」と約束しています。

STICKYの功績

STICKYの音楽は、シンプルな目的(金儲け)に基づきながらも、それ以上のものを日本のヒップホップ史に残しました。ハスラーの不安や苦悩を深く持ち、それをノンフィクショナルに本人が吐露してみせる姿勢は、多くのリスナーに影響を与え続けています。

2019年のリイシューとアナログ化

長らく入手困難な状況が続いていた『THE ALBUM』は、2019年6月19日にリイシューされました。これにより、「YOU ALREADY KNOW」を含む名曲の数々が、新しい世代のリスナーにも届けられることとなりました。

同年11月6日には、アルバム全体が2枚組仕様で初めてアナログ化。アナログレコードではSIDE-Bの1曲目に「YOU ALREADY KNOW」が配置されており、レコードをひっくり返した瞬間にSTICKYの世界に引き込まれる構成となっています。

まとめ

「YOU ALREADY KNOW」は、STICKYが単独でリリックを書き上げた、ストリートの真実を描いた楽曲です。

冷めた視点と淡々としたスタイルで、誰もが知っているはずの厳しい現実を改めて言葉にすることで、STICKYは自分たちのアイデンティティと覚悟を示しました。「文無しになるか金持ちになるか、結局は二つにひとつ」という極端な二元論が支配するストリートの世界で、彼らがどのように生きているかを率直に表現しています。

SCARSの「弱さの革命」を最も体現していたSTICKYの代表曲として、「YOU ALREADY KNOW」は日本のヒップホップ史において重要な意味を持ち続けています。

2021年に逝去したSTICKYですが、彼が残した「不器用で繊細なリリック」は、今もなお多くのリスナーの心に響き続けています。「YOU ALREADY KNOW」は、STICKYが刻んだストリートの真実として、永遠に語り継がれるべき楽曲なのです。

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