MIYACHI「HERO」徹底解説 – 日本のヒップホップシーンへの痛烈なメッセージ

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はじめに

2025年8月15日、日本とアメリカを股にかけるバイリンガルラッパーMIYACHI(ミヤチ)が、日本のヒップホップシーンに激震を走らせる新曲「HERO」をリリースしました。

この楽曲は、伝説的ラッパーNasが創設者に名を連ねる米国の名門ヒップホップレーベル「Mass Appeal」からリリースされ、初の日本人アーティストによるリリースとして大きな注目を集めています。

ニューヨークのストリートで本物のヒップホップを体験してきたMIYACHIが放つ、日本のラップシーンに対する真実の叫び—「HERO」を徹底解説します。


楽曲の基本情報

曲名: HERO
アーティスト: MIYACHI
リリース日: 2025年8月15日
レーベル: Mass Appeal
配信: 各種ストリーミングサービスで配信中


楽曲のメッセージ

偽りのギャングスタへの異議申し立て

「HERO」は、MIYACHIが日本のヒップホップシーンに投げかける痛烈なメッセージソングです。

ヒップホップの発祥地ニューヨークで生まれ育ったMIYACHIは、この楽曲を通じて平和な環境で育ちながら、ギャングスタを演じる日本のラッパーたちに異議を唱えています

刑務所を行き来し、路上で命を落とす友人たちを実際に見てきた彼にとって、そのような生き様を美化することは許しがたいこと。自身もその環境から逃れるために日本に移住したにも関わらず、偽りの「タフガイ」像を真似るラッパーたちに対して、**「お前らのクルーもリリックもファッションも全部ウソだ」**と鋭く切り込んでいます。

MIYACHIの言葉

MIYACHIはこの楽曲について、次のように語っています。

「『HERO』は迷走するシーンにリアルを取り戻すための叫び。このシーンを揺さぶり、ヒップホップに真実を取り戻すためにここにいる。これは始まりに過ぎない。」

この言葉からは、日本のヒップホップシーンに対する彼の強い問題意識と、本物のヒップホップカルチャーを伝えたいという使命感が伝わってきます。


MIYACHI(ミヤチ)- アーティスト紹介

プロフィール

本名: リオン・ミヤチ・パール(Leon Miyachi Pearl)
生年月日: 1993年2月12日
出身地: アメリカ・ニューヨーク州マンハッタン(アッパー・ウエスト・サイド)
国籍: 日系アメリカ人(日本人の母とアメリカ人の父)
学歴: テンプル大学(フィラデルフィア)音響工学専攻
活動拠点: ニューヨークと日本を行き来

音楽一家に生まれて

MIYACHIは、ニューヨークはマンハッタン、アッパー・ウエスト・サイドの音楽一家に生まれました。両親は共にクラシックピアニストで、幼い頃から音楽に囲まれた環境で育ちます。

しかし、MIYACHIが選んだのはクラシックではなく、ニューヨークのストリートから生まれたヒップホップでした。

ヒップホップとの出会い

高校入学時に作詞などの創作活動を始めたMIYACHI。ランチタイムに友人たちとラップを行い、放課後にはビート制作も行うようになります。

フィラデルフィアのテンプル大学では音響工学を学び、地元のヒップホップコミュニティで知識を深め、大きく成長しました。

日本語ラップへの転換

若い頃、日本へ旅行し、言葉を学ぶことに多くの時間を費やしたMIYACHI。大学卒業後、日本語で韻を踏み始めます。

当初は英語のみでラップをしていましたが、ふと日本語を混ぜてみたところ思ったより反響があり、今のバイリンガルスタイルに落ち着きました。

アメリカに住んでいながらも、ドラえもんやアンパンマン、ジブリなど日本の文化に触れる機会が多く、こうした経験も今のスタイルに影響しています。

ブレイクのきっかけ

MIYACHIが初めて注目を浴びるきっかけとなったのは、2017年にYouTube上で発表したミーゴス(Migos)の代表曲『Bad & Boujee』のビートジャックである**『BAD & ブジ』**です。

この曲は人気YouTuberのブライアンさんが紹介したことでも有名になり、英語と日本語を自在に操る独特なフロウが話題となりました。

代表曲

「WAKARIMASEN」(2018年) 「英語わかりません」と繰り返すサビが話題となり、Spotifyの人気チャートで1位を獲得。MIYACHIの名を日本のヒップホップシーンに知らしめた代表曲です。

「Famima Rap」 ファミリーマートの入店音をビートにした斬新な楽曲。日本のバイラルヒットランキングで1位を獲得しました。

「MAINICHI」 日常をテーマにした楽曲で、バイリンガルラップの魅力が全開。

「KONBINI CONFESSIONS」

YouTubeシリーズ「KONBINI CONFESSIONS(コンビニ コンフェッションズ)」では、サラリーマンキャラクターで独自の存在感を示し、東西文化を融合したハイエネルギーなパフォーマンスで注目を浴びています。

影響を受けたアーティスト

MIYACHIが大きく影響を受けたアーティストとして挙げているのは:

Nas – MIYACHIと同じニューヨーク州出身のレジェンドラッパー。グラミー賞に度々ノミネートされている。MIYACHIはNasのアルバム『Illmatic』を「人生において1番大事なアルバム」だと語っています。

Freddie Gibbs – インディアナ州出身のラッパー。高いラップスキルで知られる。MIYACHIは特にアルバム『Pinata』に感銘を受けたと語っています。

ニューヨークのリアル

MIYACHIがニューヨークで見てきたのは、ラップの歌詞だけでなく、本物のストリートの現実でした。

刑務所を行き来し、路上で命を落とす友人たち。ドラッグ、暴力、貧困—ギャングスタラップが歌う世界を、MIYACHIは実際に目の当たりにしてきました。

だからこそ、その環境から逃れるために日本に移住したMIYACHIにとって、平和な日本で「ギャングスタ」を演じるラッパーたちの姿は、本物のストリートの苦しみを軽んじているように見えるのです。


Mass Appeal – 伝説のレーベル

レーベルの歴史

**Mass Appeal(マス・アピール)**は、元々1996年に発刊された雑誌から始まりました。

2013年、ヒップホップ界のレジェンドNas、CEOのピーター・ビッテンベンダー、そして故ジャーナリスト・映画監督のサシャ・ジェンキンスの3人によって、メディア企業・レコードレーベルとして再始動しました。

「作り手ファースト」の理念

Mass Appealが掲げるのは**「作り手ファースト」**の理念。

大手レーベルのような「アーティストを所有する」という考え方を避け、アーティストを平等なパートナーとして扱います。才能を支え、業界を変え、文化をつくる—それがMass Appealのテーマです。

多角的なコンテンツ制作

Mass Appealは単なるレコードレーベルにとどまらず、Netflix、Showtime、HBO、CNNなどに自主企画・制作のコンテンツを供給するメディア企業でもあります。

ヒップホップの歴史を解説する動画や、Ralph McDaniels の影響力ある音楽番組「Video Music Box」についてのドキュメンタリー、ヒップホップのリリシズムの芸術に深く迫る「Word Is Bond」など、ヒップホップカルチャー全体を伝える役割を担っています。

所属アーティスト

Mass Appealには、大御所から次世代を担うアーティストまで、多彩な顔ぶれが在籍しています。

  • Nas – レーベルの共同創設者
  • Run The Jewels
  • DJ Shadow
  • J Dilla – 故人の作品もリリース
  • Dave East
  • Rome Streetz
  • Ghostface Killah
  • Raekwon
  • De La Soul
  • Big L
  • Mobb Deep

そして、2025年、MIYACHIが初の日本人アーティストとしてこの名門レーベルからリリースを果たしました。

ヒップホップ50周年プロジェクト

Mass Appealは、ヒップホップ誕生50周年を祝うために、『THE SOUNDTRACK』という全10作品のEPから成るシリーズを展開。

DJ Premier、Swizz Beatz、Mustard、The-Dream、Mike Will Made It、No I.D.、Hit-Boy、Take A Daytrip、Tainyといった業界屈指の最高峰プロデューサーたちが集結し、新しいオリジナル音楽をリリースしました。

Legend Has It…シリーズ

2025年には、ニューヨークヒップホップ界のレジェンドたちによる7作のニューアルバムを連続リリースする『Legend Has It…』シリーズを展開中。

このシリーズは、時代を超えて多大な影響力を持つアーティストたちに焦点を当て祝福するもので、ヒップホップの先駆者たちが音楽とカルチャーの構築と形成に貢献し、ニューヨークの街角から全世界へと広め、消えることがない確かな足跡を残してきたことを称えています。


楽曲の意義

本物と偽物の境界線

「HERO」が問いかけるのは、本物と偽物の境界線です。

ヒップホップは元々、アメリカの都市部で貧困や差別と闘う人々の声でした。ストリートのリアルを伝え、システムに抗う—それがヒップホップの本質です。

しかし、日本のヒップホップシーンでは、実際にはそのような環境にいないラッパーたちが「ギャングスタ」を演じる傾向があります。

MIYACHIは、本物のストリートの苦しみを知る者として、その偽りに対して声を上げているのです。

文化的リアリティの重要性

MIYACHIが強調するのは、文化的リアリティの重要性です。

ヒップホップは単なる音楽ジャンルではなく、生き方であり、文化です。だからこそ、その文化的背景を理解せずに表面だけを真似ることは、ヒップホップへの冒涜だと彼は考えています。

日本のヒップホップシーンへの愛情

誤解してはいけないのは、MIYACHIが日本のヒップホップシーンを否定しているわけではないということです。

むしろ、日本とアメリカの両方にルーツを持ち、両方のシーンを愛するMIYACHIだからこそ、日本のシーンがより本物のヒップホップに近づいてほしいと願っているのです。

「これは始まりに過ぎない」という彼の言葉は、日本のシーンに対する継続的な関与と、変革への決意を示しています。

グローバルヒップホップの架け橋

2025年春に出演したBoiler Room Hong Kongでのステージでは、フェスティバル屈指の盛り上がりを見せ、MIYACHIがグローバルヒップホップの文化的架け橋であることを証明しました。

英語と日本語を自在に操る彼だからこそ、東西文化を融合したハイエネルギーなパフォーマンスが可能なのです。


Mass Appealからのリリースの意味

初の日本人アーティスト

MIYACHIが「HERO」をMass Appealからリリースしたことは、Mass Appeal史上初の日本人アーティストによるリリースとして、非常に大きな意義を持ちます。

Nasが共同創設者を務め、Run The Jewels、DJ Shadow、J Dillaといった錚々たるアーティストが所属する名門レーベルからのリリースは、MIYACHIの実力と、彼のメッセージの重要性を物語っています。

本物のヒップホップの承認

Mass Appealからのリリースは、MIYACHIのヒップホップが本物であることの証明でもあります。

「作り手ファースト」「ヒップホップの本質を大切にする」というMass Appealの理念と、MIYACHIが「HERO」で訴える「リアルを取り戻す」というメッセージは完全に一致しています。


MIYACHIの今後

継続的な活動

「これは始まりに過ぎない」というMIYACHIの言葉通り、「HERO」は彼の活動の第一歩に過ぎません。

2022年にはWarner Music Groupのアジア地域レーベル「Asiatic Records」と契約し、アジア、グローバルアーティストとのコラボレーションも実現。ファン層は年々国際化しており、今後の展開に大きな期待が寄せられています。

文化的架け橋としての使命

MIYACHIは、自身の使命について次のように語っています。

「音楽を通して日本人には自分のニューヨークでの生活を見せて、アメリカには日本人としてのカルチャーを見せたい。ラッパーにとって一番大事なことは良い音楽を作ること。」

バイリンガルヒットを実現した後も、国内外シーンにて同時に自身のスタイルをアレンジしながらメッセージを発信し、文化的な橋渡しになることにチャレンジし続けています。


まとめ

MIYACHI「HERO」は、日本のヒップホップシーンに投げかけられた真実の叫びです。

ニューヨークのストリートで本物のヒップホップを体験し、その苦しみと美しさを知るMIYACHIだからこそ、偽りのギャングスタに対して声を上げることができました。

伝説的レーベルMass Appealからの初の日本人アーティストとしてのリリースは、彼のメッセージの重要性を証明しています。

「迷走するシーンにリアルを取り戻すための叫び」—この楽曲をきっかけに、日本のヒップホップシーンはより本物のカルチャーに近づいていくのでしょうか。

「これは始まりに過ぎない」というMIYACHIの言葉が、今後のシーンにどのような影響を与えていくのか、注目していきたいと思います。

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