はじめに
2014年4月23日にリリースされたT.O.P.の1stソロアルバム「UNDERWORLD ANATOMY」に収録された「NEW JAP CITY feat. RYUZO & KOJOE」は、日本のアンダーグラウンド・ヒップホップシーンを代表する3人のMCが結集した記念すべき楽曲です。この楽曲は、Chris Makoがプロデュースを手がけ、日本のヒップホップの新たな地平を切り開いた傑作として語り継がれています。
楽曲について
基本情報
- アーティスト: T.O.P. feat. RYUZO & KOJOE
- 収録アルバム: UNDERWORLD ANATOMY(1stソロアルバム)
- リリース日: 2014年4月23日
- レーベル: R-RATED RECORDS
- プロデューサー: Chris Mako
- 収録時間: 約2分53秒
タイトルの意味
「NEW JAP CITY」というタイトルは、ニューヨークのような大都市に対抗する新しい日本の都市という意味が込められています。単なる地理的な概念を超え、日本独自のヒップホップ文化とアイデンティティを確立するという強いメッセージが表現されています。
アーティスト紹介
T.O.P.(ティーオーピー)
T.O.P.は横浜を拠点とする日本で最もTHUGのラップグループ「THUG FAMILY」出身のラッパーです。
キャリアハイライト:
- THUG FAMILYとしての活動を経て、2012年にR-RATED RECORDSに加入
- DJ 8MANとのユニット「THUGMINATI」でミックステープ「NEW WORLD MURDER」シリーズを発表
- フィーチャリングのオファーは「国内一」と評されるほどの実力者
- 「パンチライン大魔王」の異名を持つ
T.O.P.の特徴は、説得力のあるクライム・ライフを歌う一方で、女性に対してはスウィートな一面も見せる二面性です。シリアスでありながらユーモアも兼ね備えた独特の話芸は、日本のヒップホップシーンでも唯一無二の存在として認知されています。
RYUZO(リュウゾウ)
(1977年5月10日生まれ)。京都府出身のラッパー・音楽プロデューサー・実業家。
経歴:
- 1994年:17歳でラップを開始、MAGUMA MC’sを結成
- 1996年:関西日本語ラップクラシック「OWL NITE」に京都から唯一参加
- 2005年:主宰レーベル「R-RATED RECORDS」設立
- 2009年:楽曲「The MC」がハリウッド映画『NINJA ASSASSINS』で使用
現在の活動:
- ABEMAの「ラップスタア誕生!」企画・オーガナイザー
- 渋谷でレコード・バー「BLOODY ANGLE」やクラブ「MADAM WOO TOKYO」を経営
- 日本のヒップホップシーンの重要な仕掛け人として活動
RYUZOは単なるラッパーを超え、日本のヒップホップ文化の発展に多大な貢献をしているレジェンド的存在です。「HIPHOPはゲットーミュージック」という信念のもと、常にアンダーグラウンドの価値観を大切にしています。
KOJOE(コージョー)
新潟県十日町市生まれ、NYクイーンズ育ちのバイリンガル・ラッパー。
アメリカでの経歴:
- 17歳でスキー留学のためアメリカへ渡米
- 2007年:アジア人初となるRAWKUSレーベルと契約
- ニューヨークのアンダーグラウンドシーンで腕を磨く
帰国後の活動:
- 2009年:日本帰国後、英語と日本語をミックスした独特のスタイルを確立
- 完全インディペンデントなスタイルを貫く孤高のラッパー
- 同業者からの圧倒的な支持を受ける実力派
KOJOEの特徴は、NYで培ったブラックミュージックのグルーヴと日本語の絶妙な融合です。どちらの言語でも違和感なく聞けるスキルは、日本のヒップホップシーンでも特異な存在として評価されています。
楽曲の文脈と意義
アルバム「UNDERWORLD ANATOMY」の位置づけ
「UNDERWORLD ANATOMY」は、T.O.P.にとって初のオリジナル・ソロ作品として、エクゼキュティブ・プロデューサーに318(GUNSMITH PRODUCTION)を迎えた野心作です。
参加アーティスト:
- RYUZO、KOJOE(本楽曲)
- KOHH、ZEUS、JAZEE MINOR
- LA BONO CAPO、MONY HORSE
- RUDEBWOY FACE、TRIGA FINGA
- MARY JANE、A-THUG
このアルバムは、当時の日本のアンダーグラウンド・ヒップホップシーンの豪華メンバーが集結した、まさに「オールスター」的な作品として位置づけられています。
2014年という時代背景
2014年は日本のヒップホップシーンにとって重要な転換点でした:
- アンダーグラウンドの成熟期: 2000年代から続くアンダーグラウンドシーンが一つの頂点を迎えた時期
- 海外との接続: KOJOEのような海外経験を持つラッパーが帰国し、国際的な視点を持ち込んだ
- レーベルの充実: R-RATED RECORDSをはじめとする独立レーベルが力をつけていた時期
- 次世代への橋渡し: ベテランと新世代をつなぐ重要な時期
音楽的特徴
プロダクション(Chris Mako)
Chris Makoによるプロダクションは、クラシックなブーンバップの美学を現代的にアップデートしたサウンドが特徴です。重厚なキックとスネア、そして絶妙にチョップされたサンプリングが、3人のMCの個性をそれぞれ引き立てながらも統一感のある楽曲に仕上げています。
三者三様のアプローチ
T.O.P.:ホストとしての貫禄と、「パンチライン大魔王」らしい鋭いワードプレイでリスナーを牽引
RYUZO:関西弁を織り交ぜた野太い声で、アンダーグラウンドの重みと説得力を表現
KOJOE:英語と日本語をシームレスに使い分け、国際的なヒップホップの視点を提供
楽曲の文化的意義
「日本のヒップホップ」の定義
「NEW JAP CITY」は、単に日本でヒップホップをやるのではなく、「日本独自のヒップホップ」とは何かを追求した楽曲です。3人のMCはそれぞれ異なるバックグラウンドを持ちながらも、共通して日本のアンダーグラウンド文化に根ざしたアイデンティティを表現しています。
アンダーグラウンドの価値観
この楽曲は、商業主義に迎合しない本物のヒップホップの価値観を貫いています:
- リアリティの重視: 見栄や虚飾のない、生の体験に基づく表現
- 技術への敬意: MCとしてのスキルとリリックの巧妙さ
- 文化の継承: ヒップホップの本質的な価値観の次世代への伝達
- 独立精神: メジャーレーベルに依存しない自立したアート
国際性と地域性の融合
KOJOEの海外経験、RYUZOの関西ルーツ、T.O.P.の横浜ベースという組み合わせは、日本のヒップホップの多様性と国際性を象徴しています。この楽曲は、グローバルなヒップホップ文化の中で日本独自のポジションを確立する試みとして評価できます。
楽曲の影響と評価
批評家からの評価
音楽評論家からは、「アクの強いゲストだらけだが、それに劣らぬ主役のタフネスがヤバい」として高く評価されています。3人の強烈な個性がぶつかり合いながらも、見事に調和した楽曲として認知されています。
シーンへの影響
この楽曲は、異なるバックグラウンドを持つラッパー同士のコラボレーションの可能性を示し、その後の日本のヒップホップシーンにおけるクロスオーバー的な楽曲制作にも影響を与えました。
ファンからの反応
長年にわたってアンダーグラウンド・ヒップホップファンから愛され続けており、「日本のリアル・ヒップホップ」を代表する楽曲の一つとして語り継がれています。
現在への継承
それぞれのその後
T.O.P.:現在もR-RATED RECORDSで活動を続け、アンダーグラウンドシーンの重鎮として影響力を保持
RYUZO:「ラップスタア誕生!」を通じて新世代の発掘・育成に注力し、シーンの発展に貢献
KOJOE:P-VINEレーベルから作品をリリースし、独自の音楽性を追求し続ける孤高のアーティスト
次世代への影響
この楽曲で示されたアンダーグラウンドの価値観と国際的な視点は、現在の若手ラッパーたちにも大きな影響を与え続けています。技術的な巧みさと文化的な深さを両立させる姿勢は、多くのアーティストの目標となっています。
おわりに
「NEW JAP CITY feat. RYUZO & KOJOE」は、単なる楽曲を超えて、日本のヒップホップ文化の一つの到達点を示した作品です。3人の異なる個性が融合することで生まれた化学反応は、「日本のヒップホップ」が世界に誇れる独自の文化であることを証明しています。
2014年から10年以上が経過した現在でも、この楽曲が持つメッセージと音楽的な完成度は全く色褪せていません。むしろ、日本のヒップホップシーンがさらに多様化し国際化する中で、この楽曲が示した道筋の重要性はより明確になってきています。
アンダーグラウンドの精神を保ちながらも世界に通用するクオリティを追求する姿勢は、これからの日本のヒップホップアーティストにとって重要な指針となるでしょう。「NEW JAP CITY」は過去の作品でありながら、同時に未来への道筋を示した預言的な楽曲として、永く語り継がれていくに違いありません。
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