はじめに
2025年9月、ヒップホップ界に衝撃的なニュースが駆け巡った。レジェンドラッパーのアイス・キューブが10年以上ぶりに新作をリリースし、その中でもとりわけ注目を集めているのが「Certified G’z」という楽曲だ。この作品は単なる新曲リリースを超えて、ウエストコーストヒップホップの歴史における重要なマイルストーンとなっている。
アーティストの豪華な顔合わせ
アイス・キューブ – ヒップホップレジェンドの復活
アイス・キューブにとって「Certified G’z」は10年以上ぶりの新作リリースであり、初めてチカーノラップアーティストとのコラボレーションとなる歴史的な作品だ。N.W.A.の元メンバーとして、また映画界でも成功を収めたアイス・キューブの復帰は、ヒップホップコミュニティにとって大きな意味を持つ。
この楽曲は彼の待望の続編アルバム「Man Up」からの楽曲で、昨年リリースされた「Man Down」の続編として位置づけられている。
Mr. Shadow – チカーノラップの重鎮
サンディエゴを拠点とするMr. Shadowは、チカーノラップシーンで約20年間にわたって活動している重要な人物だ。20枚以上のアルバムを英語とスペイン語でリリースし、100以上のフィーチャリングを手がけており、最も多作で影響力のあるメキシコ系アメリカ人ラッパーの一人として知られている。
彼のキャリアは90年代後半のサンディエゴラップシーンから始まり、Kokane、Kurupt、Daz Dillinger、Suga Freeといったウエストコーストの重要アーティストたちと数多くのコラボレーションを重ねてきた。
Kokane – G-Funkサウンドの先駆者
「世界で最もフィーチャリングされたレコーディングアーティスト」として称賛されるKokaneは、G-Funkサウンドの真の先駆者だ。アイス・キューブと同様に、80年代の伝説的なレーベルRuthless Recordsでキャリアをスタートさせており、今回のコラボレーションは世代を超えた完全な円環を描く瞬間となっている。
楽曲の制作背景とプロダクション
プロデューサー陣
「Certified G’z」はDr. EvoとNokturによってプロデュースされた。この両プロデューサーは、Snoop Dogg、Tha Dogg Pound、Tha Eastsidaz、Warren G、Redmanといったウエストコーストラップの重要アーティストたちとの作業で知られている。
彼らの関与により、クラシックなG-Funkへのオマージュを払いながら現代的な要素を取り入れたサウンドスケープが実現されている。
アルバム「I’m Done Bring It Back」との関連
興味深いことに、この楽曲はMr. Shadowの最新アルバム「I’m Done Bring It Back」からの楽曲でもあり、2025年6月6日にmrshadow.com限定で14曲入りのアルバムとしてリリースされた。このアルバムにはCypress HillのB-Real、Finis、C-Rayといったアーティストも参加している。
メッセージ引用解説
[Chorus: Kokane]
In the corner with the OG’s (Ah)
Never been a wannabe (Wow wow, yeah)
These are certified G’z
→ 日本語訳
「隅っこで本物のOG(古参ギャング/ベテラン)と一緒にいる
決して“なりたがり”なんかじゃない
俺たちは認められた本物のG(ギャングスタ)だ」
✅ OG は「Original Gangsta」の略。実際にストリートや組織で経験を積んできた人物を指す。
ここでKokaneは、自分たちが“フェイクじゃなくリアル”な存在であることを主張してる。
[Verse 1: Ice Cube]
I only ride with the certified (Certified)
Gladly provide those murder vibes (Yeah)
West Coast, glide on the 405 (West Coast)
Fuck with us, get your game notarized
→ 日本語訳
「俺が一緒に走るのは本物だけ
喜んで“殺気立ったバイブス”を届ける
405号線を滑るように走る(西海岸)
俺たちに関われば、嫌でも本物だと証明されるぜ」
✅ 405 はカリフォルニアの主要高速道路。Ice Cubeが「西海岸の象徴」として使っている。
✅ 「notarized(公証される)」=「公式に認められる」という言い回しで、「俺らに関われば、偽物はすぐ炙り出される」という意味。
My crip walk look like it’s motorized
I polarize bipolar rap guys
→ 日本語訳
「俺のクリップウォークは機械仕掛けみたいに滑らか
二重人格みたいなラッパーたちを分断する」
✅ Crip Walk はLAのギャング「Crips」発祥のダンス。Cubeはそれを“洗練された象徴”として使っている。
✅ Ice Cubeは90年代から“ギャングスタラップの代表格”。「俺はストリート出身だから、二枚舌のラッパーとは違う」という線引きをしている。
I got homies in Diego
Like my nigga JO
I’ll show yo ass a halo
→ 日本語訳
「サンディエゴに仲間がいる
JOみたいなやつだ
お前に天使の輪を見せてやろう」
✅ “halo”=天使の輪 →「殺して天国に送る」というスラング的表現。
✅ Cubeのリリックは、ただの威嚇ではなく「地元(L.A. & San Diego)の繋がり」と「ギャングスタとしての覚悟」を示している。
[Verse 2: Mr. Shadow]
Make no mistake, it’s the return of the alligator
Roughneck, spit more game than a commentator
→ 日本語訳
「勘違いするな、ワニのように帰ってきた
タフな男、解説者以上に語るぜ」
✅ Mr. Shadow(サンディエゴ出身のチカーノラッパー)は、自分のハードなスタイルを“alligator(ワニ)”になぞらえている。
12 gauge under the couch at my mama’s house
→ 日本語訳
「ママの家のソファの下にはショットガンを隠してる」
✅ 実際のストリートの現実を描写。「ラップにするだけのネタじゃなく、本当に生きてきた世界だ」と強調してる。
Boujee rappers need to put a fucking dress on (Hahaha)
→ 日本語訳
「気取ったラッパーどもはドレスでも着とけよ(笑)」
✅ “Boujee”=金持ちぶってる奴、フェイクな上流気取り。
ここで彼は「金やSNS映えだけのラッパーは本物じゃない」とディスっている。
[Bridge: Kokane]
This shit is fuego
L.A. to Diego, fuego, fuego
All about my Pesos (Certified G’z)
→ 日本語訳
「これは炎みたいに熱い
LAからサンディエゴまで燃え上がる
俺は金(ペソ)のために動く」
✅ “fuego”はスペイン語で「炎」。
✅ Pesos=メキシコ通貨。チカーノ(メキシコ系アメリカ人)のアイデンティティを意識している。
音楽ビデオとビジュアル
音楽ビデオは9月17日水曜日にプレミア公開予定で、Jeff Reyes(Echosworld)が監督し、Oscar Ariasがプロデュースを手がけている。このビデオは、統一と敬意というメッセージを増幅させる映画的なビジュアルナラティブを提供し、2つの都市、2つの文化、2人のレジェンドが重要な瞬間に収束する印象的な祝祭として制作されている。
アイス・キューブの「Truth to Power」ツアーとの関連
この楽曲のリリースタイミングは、アイス・キューブが10年以上ぶりに行っているUSツアーと密接に関連している。「Truth to Powerはただのツアー以上のものだ。40年間の祝祭だ。世界は真実を必要としている。人々は力を必要としている。それが私の音楽がもたらすものだ」と彼は述べている。
ファンの反応と文化的インパクト
ファンからは「歴史を作る、長い間待たれていた良い仕事だ、Mr. ShadowとCube」「ウエストコーストレジェンド、Shadow、Cube、Kokane」「ウエストサイド終日ベイビー。最高の中の最高、終日ウエストコースト、アイス・キューブ、君はこれでGだ。Mr. Shadow、LA Razaは長い間これを待っていた。グラシアス」といった熱狂的な反応が寄せられている。
楽曲の歴史的位置づけ
「Certified G’z」は、文化の歴史に根ざしながらも現在にしっかりと根付いた記録として、Mr. Shadowの生々しい無修正の表現と、キューブの妥協のない視点、そしてKokaneの特徴的なG-Funkボーカルを組み合わせている。
アイス・キューブを加えることで、「Certified G’z」は80年代後半のN.W.A.の反抗から、キューブ自身の政治的で街中心のクラシックまでを辿る系譜と結びついている。
まとめ
「Certified G’z」は単なる楽曲リリースを超えて、ウエストコーストヒップホップの過去、現在、未来を結ぶ重要な文化的声明となっている。アイス・キューブの10年以上ぶりの新作、チカーノラップとの初コラボレーション、そして世代を超えたアーティストたちの結集は、ヒップホップコミュニティにおける統一と多様性の力強いメッセージを発信している。
この楽曲は、音楽の境界を超えて文化的な架け橋となり、異なるコミュニティ間の理解と協力の重要性を示している。ウエストコーストヒップホップの新たな章の始まりを告げる「Certified G’z」は、間違いなく2025年の最も重要な楽曲の一つとして記憶されるだろう。
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