はじめに – 異色のコラボレーションが生んだ名曲
2023年5月31日、日本のヒップホップシーンに新たな名曲が誕生した。沖縄県那覇市出身のベテランラッパーCHICO CARLITOと、千葉県八千代市出身の新世代ラッパーBonberoによるコラボレーション楽曲「The Best Kid feat. Bonbero」である。この楽曲は、CHICO CARLITOの3rdアルバム「Grandma’s Wish」の収録曲として発表され、異なる世代、異なる地域出身のラッパー同士が織りなす化学反応が多くのファンを魅了した。
楽曲概要
基本情報
- リリース日: 2023年5月31日(シングル)、2023年6月30日(アルバム収録)
- アルバム: 「Grandma’s Wish」(3rd Album)
- メインアーティスト: CHICO CARLITO
- フィーチャリング: Bonbero
- 収録時間: 3分00秒
- レーベル: CHICO CARLITO / RED
制作・映像スタッフ
- ミュージックビデオ監督: MESS
- アルバムアートワーク: 坂口ウラン(著名なラップ業界フォトグラファー)
- プロデューサー陣: A-KAY、11zero for MurderFaktry、hokuto、KNOTT、NAOtheLAIZA、NARISK
楽曲「The Best Kid feat. Bonbero」の魅力
異世代コラボレーションの意義
この楽曲は、1993年生まれのCHICO CARLITOと2003年頃生まれのBonberoという約10歳の年齢差を持つラッパー同士のコラボレーションである。CHICO CARLITOがフリースタイルダンジョンで活躍していた頃、Bonberoはまだ中学生だった計算になる。このような世代を超えたコラボレーションは、日本のヒップホップシーンの発展と継承を象徴的に表現している。
地域性の融合
沖縄県那覇市と千葉県八千代市という、地理的にも文化的にも異なる地域出身の二人が作り上げた楽曲は、日本各地のヒップホップカルチャーの多様性を体現している。CHICO CARLITOの沖縄らしい独特のリズム感と、Bonberoの関東圏で培われた現代的なラップスタイルが見事に融合している。
CHICO CARLITOの音楽的特徴と成長
独特のラップスタイル
CHICO CARLITOのラップの特徴として、独特なハイトーンボイスと、リズミカルなフロウの連打が挙げられる。また、リズムが0.5拍ほど後ろにずれており、その結果、ラップでは「ビートの後ろの方に乗っている」ような状態となっており、これも特徴の1つとなっている。
沖縄との関係性
CHICO CARLITO:だって今でも沖縄帰りたいもん(笑)。最近めちゃくちゃ思うことがあって、ずっと都会で育ってきた人とは、経験値や人間の性質が全然違うなって感じました。
CHICO CARLITOにとって沖縄は常に帰るべき場所であり、そのアイデンティティは音楽にも色濃く反映されている。歌詞でも言ってるんですけど「近くて遠い日本」だと思っています。離れてるし、リゾート地だし、日本じゃないみたいですよね。沖縄にいい印象を持ってくれてる人が内地に沢山いるのも嬉しいです。だからこそ沖縄のことをもっと知ってほしいから曲を書いてます。
活動休止期間からの復活
CHICO CARLITOには約3年間の活動休止期間があった。実はここが、ラッパー「CHICO CARLITO」にとっての分岐点だったとも言える。この空白期間を経て復活したCHICO CARLITOの音楽には、より深みと人間味が加わっている。
Bonberoの才能と特徴
ラップスタイルの特徴
Bonberoのラップスタイルは、背伸びをせず、等身大の自分を表現することが特徴です。「元々は音を優先していたが、それが根本的に間違っていた。」「思った事を単語で踏む主流より母音の強調や抑揚の付け方で韻を踏むスタイルを浸透させたい」「自分なりの考えや周りのかっこいい仲間たちの考えを主張していきたい」。
業界からの評価
千葉県出身のラッパー。2019年、16歳のころからSoundCloudに楽曲をアップしはじめ、ヒップホッププロジェクト夜猫族へ加入。Tade Dust & Bonberoとしてアルバム『Rule of Groove』、ソロでもEP『Knock it Down』を発表しスキルの高さが早耳に知られ、AbemaTV「ラップスタア誕生2021」以降、圧倒的なスキルとワードセンスが全国的に話題を呼ぶ。
Apple Music「UP NEXT」選出
2023年2月にはApple Musicの新人応援プログラム「UP NEXT」に選出されるなど、その才能は国際的にも認められている。
楽曲の社会的・文化的意義
世代継承の象徴
「The Best Kid feat. Bonbero」は、日本のヒップホップシーンにおける世代継承を象徴的に表現した楽曲である。フリースタイルダンジョン世代を代表するCHICO CARLITOと、ラップスタア誕生世代を代表するBonberoのコラボレーションは、日本のヒップホップシーンの歴史的な変遷を物語っている。
地域の多様性の表現
沖縄と千葉という異なる地域出身のラッパーが共演することで、日本全国に広がるヒップホップカルチャーの多様性と豊かさを表現している。これは、東京中心主義ではない、より包括的な日本のヒップホップシーンを象徴している。
音楽的技術の融合
ベテランの経験と技術、新世代の革新性とエネルギーが融合することで、従来の枠組みを超えた新しい音楽表現が生まれている。この楽曲は、日本のヒップホップが如何にして進化し続けているかを示す証左でもある。
ミュージックビデオの芸術性
MESS監督の演出
MESS監督による映像作品は、両ラッパーの個性を際立たせながらも、統一感のある作品に仕上がっている。シンプルながらも印象的な映像は、楽曲の持つメッセージを視覚的に強化している。
楽曲の商業的成功と反響
配信での成功
「The Best Kid feat. Bonbero」は、各種音楽配信プラットフォームで好調な成績を収めている。特に若い世代のリスナーから高い支持を得ており、TikTokやYouTubeでも多くの反響を呼んでいる。
日本のヒップホップシーンへの影響
コラボレーション文化の促進
この楽曲の成功は、日本のヒップホップシーンにおいて、世代や地域を超えたコラボレーションの重要性を示している。多くの若手ラッパーが、ベテランとのコラボレーションを積極的に求めるようになっている。
地方シーンの活性化
沖縄と千葉という地方出身のラッパーによる成功例は、東京以外の地域で活動するラッパーたちに大きな希望を与えている。これにより、全国各地のローカルシーンがより活発化している。
音楽的多様性の拡大
異なるスタイルを持つラッパー同士の融合は、日本のヒップホップの音楽的多様性を拡大している。これにより、より多くのリスナーがヒップホップに親しみを感じるようになっている。
ファンコミュニティの反応
世代を超えた支持
この楽曲は、CHICO CARLITOの既存のファンとBonberoの新しいファン層の両方から支持を得ている。特に、両者のファン層が重複することで、新たなコミュニティが形成されている。
ソーシャルメディアでの拡散
TwitterやInstagram、TikTokなどのソーシャルメディアでは、楽曲に関する投稿や動画が多数作成され、自然発生的な拡散が起こっている。
技術的側面と制作プロセス
レコーディング環境
アルバム「Grandma’s Wish」の制作において、豪華なプロデューサー陣が参加することで、高品質なサウンドが実現されている。各プロデューサーの特色が楽曲に反映され、多層的で豊かな音響空間が創造されている。
ミキシングとマスタリング
楽曲全体のバランスは絶妙で、CHICO CARLITOとBonberoそれぞれの声の特徴を活かしながらも、統一感のあるサウンドに仕上がっている。
楽曲の歌詞一部引用解説
CHICO CARLITOのヴァース
もう知ってんだろ? 俺らのことBest kids どう見たって上がってる命中率 このベロにはないです定休日
自分たちはシーンで「ベスト(最高)なキッズ」だと宣言。ラップのクオリティも、ヒットを生み出す精度も増しており、常に全力で休みがない(定休日なし) という表現。
Gangや薬のスタイルと全く逆サイド
ストリートラップ=ギャング/ドラッグに寄りがちなステレオタイプを否定。**「自分は違うやり方で勝負している」**というスタンスを強調。
退学したMiddle school 答えのないシンポジウム Let it beって言ってたビートルズ 今飲み干すリンゴジュース
彼自身の過去を振り返るライン。中学退学という事実や、答えのない人生に「Let it be」を重ねる。さらに「リンゴジュース」はビートルズ=ジョン・レノンのパロディ(=ジョン・レノンの本名 John Winston Lennon → “Winston”をジュースにかけている説も)。遊び心あるワードプレイ。
少年 フラグ回収 No thanks,セカンドライフ 追いてかれないし、老いて枯れない
少年時代から掲げてきた夢や決意(フラグ)をしっかり回収してきている。人生や夢に「セカンドライフ(代替)」はなく、年を取っても枯れずに挑戦し続ける。
誰かが呼んでるMr.ミヤギ いや、しらねぇよ いつも俺は俺だし
「Mr.ミヤギ」(映画『ベスト・キッド』の師匠キャラ)にかけてる。彼自身も“Best Kid”と言われる立場だが、権威や役割には縛られない。「俺は俺」 という自分らしさを貫くスタイル。
Bonberoのヴァース
発端なら五反田のRec 遭遇、那覇のYoung OG
出会いの原点。Bonberoは五反田のスタジオ、CHICO CARLITOは那覇の若きOG(ラップ界の先輩格)。そこからの縁で始まった物語を描く。
居ても立っても居られない 餓鬼じゃないと見られない(光景) あえてfreestyleも魅せた I’m エンターテイナー
若いからこそ見える景色、若いからこそできる無鉄砲さ。それをラップ=エンターテイメントに昇華しているという自己表現。
やる事やって経つ2, 3年
都合が良い奴らがまた
YouTubeみたいにショートで切る断片
シーンに出てから2〜3年。今や名前が広がり、自分の発言やラップの一部だけが切り取られて消費されるという現状への皮肉も込められている。
鏡さ、Me vs me
染み付いて取れないノリと
このyellowのskin
もう知ってんだろ “Best kid”
本当のライバルは他人ではなく自分自身(Me vs Me)。黄色い肌=アジア人としてのアイデンティティも含め、堂々と「Best Kid」だと宣言。
フック
ワックス塗ってるポーズ 空手みたいなバランス 呼吸みたく吐いたバース越える過半数 The best, best, best kid
これは『ベスト・キッド』映画に登場する有名なトレーニングシーン(車にワックスを塗る動作)をラップに引用。空手のようにバランスよく、呼吸するように自然に吐き出されるライム。
つまり、努力を積み重ねた先に自然体の“Best Kid”があるという比喩。
結論
この曲のテーマはシンプルに 「俺らがシーンのBest Kidだ」 という宣言。
- CHICO CARLITOは自身の過去(中退・沖縄の環境)と逆境を経て「俺は俺」と突き進む姿を描き、
- Bonberoは上京してからのキャリアとシーンでの成長を踏まえつつ、次世代の中心に立つ覚悟を見せている。
「Best Kid」というタイトルは、映画『ベスト・キッド』の引用でもあり、ヒップホップ的に言えば 「努力を積み重ねてきた若きチャンピオン」 を意味している。
コメント