はじめに
2021年11月24日にリリースされたEP『thin gold chain』は、徳島県小松島市出身のラッパーWatsonが一躍注目を浴びるきっかけとなった作品です。特に収録曲「18K」は、彼の代表曲として多くのファンに愛され続けています。「なけなしの金で、全然太くない、薄いチェーンを買った」というEPタイトルの由来が示す通り、この作品はWatsonの等身大の現実を赤裸々に描いた、極めて誠実な音楽作品となっています。
アーティストWatson:徳島から全国へ
2000年2月22日に誕生し、徳島県小松島市出身のWatsonは、決して恵まれた環境から音楽を始めたわけではありませんでした。18歳で大阪に移り住み、馴染みの彫り師のタトゥースタジオにレコーディングスタジオが併設されていたことをきっかけとして本格的にラップをはじめました。
彼の音楽的特徴は、研ぎ澄まされたラップスキルとストリートのユーモアを駆使して新潮流を生む点にあります。トラップ、ドリルのビートに対して、3連フロウやメロディアスなアプローチではなく、グライムやドリルの流れをくむ倍速ラップをたたみ掛けるスタイルが大きな特徴となっています。
楽曲「18K」の魅力と意味
楽曲「18K」は、薬物をやめても細い身体、21年間の人生をありのままつづったリリックにメッキコーティングは施していない作品として紹介されています。この楽曲の歌詞には、「ヤクキメてなくても必死にする掃除」「田舎なもんで望遠鏡必要ない上見りゃ星…目だけが泣いてる理由はOG」といった、日常の些細な出来事から深い感情まで、等身大の表現が込められています。
また、「Gt5すぐチート使っちゃうエリートじゃないクソニート/職探せ言われるカーチャンに」という歌詞にもその時のリアルなラインが表現されています。これらのリリックは、多くの若者が共感できるリアルな現実を歌ったものとして評価されています。
EP『thin gold chain』の制作背景
このEPの制作について、WatsonはこのEPを契機として、「シーンに出る」ことを意識しはじめるようになるました。Watson自身は1日2曲以上のペースという、驚異的なスピードで楽曲を制作していると言われており、その創作意欲の高さが作品の質を支えています。
EP全体の構成は7曲22分という凝縮された内容で、「zzz (feat. Nero)」「18K」「I know」「wo」「Look」「Beans」「pull (feat. smiley)」が収録されています。各楽曲にはそれぞれ異なる魅力があり、Watson の多面的な才能を感じることができます。
音楽業界からの評価
この作品に対する業界からの評価は非常に高く、LilPri(YYK)は「もつれたフロウから吐き出されるリリックの強度は近年登場した若手でも群を抜く」、二木信は「詩的で自分の内面を歌うラッパーとしての表現力を持っている」と、高く評価している状況です。
特にとにかくそのリリックは尺稼ぎとは無縁であり、もつれたフロウから吐き出されるリリックの強度は近年登場した若手でも群を抜き、シーンでの更なる活躍を予感させると評されています。
Watson独特のスタイルとファッション
Watsonの楽曲には、彼のライフスタイルやファッションへのこだわりも表現されています。「誰かにバカにされてもかぶって外出たNEWERAのキャップ」(18k)という歌詞からも分かるように、彼にとってファッションは自己表現の重要な要素となっています。
Watsonのコーデは黒やグレーのダークトーンのものをよく着ています。ボトムスはタイトめで、トップスはトレンドっぽくオーバーサイズな着こなしをしていますという彼のスタイルは、音楽と同様に多くの若者に影響を与えています。
楽曲制作への姿勢とリリックの源泉
Watsonの楽曲制作に対する姿勢は非常に真摯で、そこから、現在のありのままを歌うようになってから、曲のストックは600曲を超えていますという驚異的な制作量を誇っています。
彼のリリックの特徴は、身の回りのあらゆることを歌詞にしているのでたくさんのリリックがかけるのですね!元カノ(Watsonさんの元彼女)の髪をアイロンで焼いてしまったというストーリーなど、ちょっと笑えたり、共感できるような歌詞があるのも魅力ですという点にあります。
ストリーミングでの成功
楽曲「18K」は各音楽配信サービスでも好調な成績を収めており、AWAでは15万回以上の再生数を記録しています。歴代人気曲からのオススメ:「18k」、「reoccurring dream」、「Fake Love (feat. DADA)」として紹介されるなど、Watson の代表曲としての地位を確立しています。
徳島から全国へ:地域性とアイデンティティ
Watsonの音楽の大きな特徴の一つは、徳島という地方都市出身であることを誇りに思い、それを音楽に反映させている点です。T-STONEに続き、一気に徳島をHIPHOP地図に書き加える存在になるかという期待も寄せられており、地方発のアーティストとしての注目度も高まっています。
徳島県の小松島市っていう…超田舎の出身です。でも最近はそうですね、少しずつ来てるのかなって感じはしてますと語るWatson自身も、地元への愛着と全国的な成功への意欲を両立させています。
キャリアの転換点としての『thin gold chain』
このEPは、Watsonにとって重要なキャリアの転換点となりました。これ出して…ちょっと徳島のシーンから出てくことを意識したときに、「あ、俺いけるんちゃうかな」ってなんか思えたっすと語るように、この作品を通じて自信を深め、より大きな舞台を目指すきっかけとなったのです。
プロデューサーKoshyとのタッグ
Watson の音楽制作において重要な役割を果たしているのが、プロデューサーのKoshyです。ビートはこれまで数多くの楽曲でタッグを組んできたKoshyが全プロデュースをしていることからも分かるように、両者の創造的なパートナーシップがWatsonの音楽の質を支えています。
現在の活動と今後への展望
EP『thin gold chain』のリリース以降、Watsonは着実にキャリアを積み重ね、2023年のインタビューでは前日にベンツのAMGを購入した旨を語っているなど、経済的な成功も収めています。また、徳島最大級のアリーナ”アスティとくしま”で実施する単独公演を開催するなど、地元での凱旋公演も実現しています。
2022年3月23日にミックステープ『FR FR』をリリースし、2023年の日本語ラップシーンにおいては、Watsonのフローに影響を受けた「Watson系」のラッパーが多く現れるに至ったという状況は、彼の音楽的影響力の大きさを物語っています。
まとめ:等身大の表現が生み出す普遍的な魅力
Watson の「18K」を収録したEP『thin gold chain』は、自分が何者なのかわからない人に聞いてほしいというメッセージが込められた作品です。「なけなしの金で、全然太くない、薄いチェーンを買った」という等身大の体験から生まれたこの作品は、多くの若者の心に響く普遍的な魅力を持っています。
徳島という地方都市から全国区のアーティストへと成長したWatsonの軌跡は、同世代の多くの人々にとって希望の象徴でもあります。彼の音楽が持つリアリティと誠実さは、今後も多くのリスナーに愛され続けることでしょう。『thin gold chain』は、そんなWatsonの才能が結実した記念すべき作品として、日本のヒップホップシーンに確実にその名を刻んでいるのです。
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