オーシャンサイドからの実況中継
2020年11月20日にリリースされたアルバム『Can U Handle The Funk』の5曲目に収録された「Reporting Live from Oceanside feat. Babee Loc & Jessica Duron」は、タイトルが示す通り、まさにオーシャンサイドの街から世界へ向けた音楽的な生中継である。この楽曲は、Dezzy Hollow(デジー・ホロウ)が地元への深い愛情と誇りを、最も直接的に表現した作品の一つと言えるだろう。
楽曲には、オーシャンサイドのレゲエ・ガンスタラップシーンのパイオニアであるBabee Loc(ベイビー・ロック)と、地元の女性シンガーJessica Duron(ジェシカ・デュロン)が参加。3人のアーティストが織りなすハーモニーは、オーシャンサイドという街が持つ多様性と豊かな音楽文化を象徴している。
Babee Loc – 西海岸ガンスタレゲエの先駆者
この楽曲を語る上で欠かせないのが、フィーチャリングアーティストのBabee Locの存在だ。彼は「西海岸ガンスタレゲエのパイオニア」として知られ、Budeboy Entertainment / Bangola Music Groupの CEOを務める多才なアーティストである。ラッパー、レゲエアーティスト、そして俳優としても活動し、オーシャンサイドの音楽シーンを長年にわたって牽引してきた。
2013年にはアルバム『Element Of Surprise』をリリースするなど、継続的に音楽活動を行っており、「Nothing Like California」「Street Kings」「Play No Games」といった楽曲で、カリフォルニアの街の物語を音楽として表現してきた。彼の参加は、この楽曲に世代を超えた深みと説得力を与えている。
DJ Quikの「We Still Party」サンプルが繋ぐ西海岸の系譜
「Reporting Live from Oceanside」の音楽的な基盤となっているのは、DJ Quikの1998年の楽曲「We Still Party」のサンプリングである。DJ Quikは、コンプトン出身の西海岸ヒップホップのレジェンドであり、プロデューサーとしても数々の名作を生み出してきた。
「We Still Party」自体も、Zachary Sandersの「Verb: That’s What’s Happening」をサンプリングしており、複層的な音楽的引用の連鎖が生まれている。このサンプリングの選択は、90年代後期のGファンクサウンドへのオマージュであると同時に、西海岸ヒップホップの伝統を現代に継承する意志の表れでもある。
DJ Quikのプロダクションが持つ独特のグルーヴ感と、Dezzy Hollowの現代的なアプローチが融合することで、時代を超えた普遍的な魅力を持つ楽曲が生まれている。
Jessica Duronが加える女性的な視点
Jessica Duronの参加も、この楽曲に重要な要素を加えている。彼女は「Balance」「Disparando」「Still Awake」といった楽曲でも知られ、オーシャンサイドを中心とした南カリフォルニアの音楽シーンで活動を続けている女性アーティストだ。
彼女の歌声は、男性中心になりがちな西海岸ヒップホップシーンに、女性的な視点と感性をもたらしている。「Reporting Live from Oceanside」では、彼女の存在が楽曲全体のバランスを取り、より豊かな音楽的表現を実現している。同アルバムの最終曲「Gangsta Love」でも彼女はフィーチャーされており、Dezzy Hollowとの音楽的相性の良さが伺える。
地元メディアとしての役割
「Reporting Live from Oceanside」というタイトルは、単なる比喩ではない。この楽曲は、文字通りオーシャンサイドの日常を音楽として記録し、世界へ発信する地元メディアとしての役割を果たしている。
主流メディアではなかなか取り上げられない地方都市の現実、そこに生きる人々の喜びと苦悩、希望と挫折。これらすべてが、3分余りの楽曲の中に凝縮されている。Dezzy Hollow、Babee Loc、Jessica Duronの3人は、それぞれの視点から街の物語を語り、リスナーにオーシャンサイドの真実の姿を伝えている。
MadStrangeレーベルが実現する地元アーティストの連携
この楽曲のリリースを支えたMadStrangeレーベルの存在も重要だ。地元オーシャンサイドを拠点とする独立レーベルとして、地域のアーティストたちが協力し合える環境を提供している。
Dezzy HollowとBabee Locというジェネレーションの異なるアーティストのコラボレーション、そしてJessica Duronという女性アーティストの参加は、MadStrangeが目指す包括的で多様性のある音楽コミュニティの理想を体現している。
Daniel XimenezとAndres Ximenez兄弟が築いてきたこのプラットフォームは、単なるレコードレーベルを超えて、オーシャンサイドの音楽文化を育み、発信する重要な拠点となっている。
ミュージックビデオが映し出す街の風景
YouTubeで公開されているミュージックビデオは、オーシャンサイドの日常風景を余すところなく捉えている。街角での撮影、地元の人々の登場、そしてローライダーやビーチといったカリフォルニアを象徴する要素が、楽曲の世界観を視覚的に補完している。
映像制作を手掛けたDaniel Ximenezは、音楽だけでなく映像を通じても、オーシャンサイドの魅力を世界に発信することに成功している。ミュージックビデオは、観光パンフレットには載らない、リアルなオーシャンサイドの姿を映し出している。
アルバム『Can U Handle The Funk』における位置づけ
「Reporting Live from Oceanside」は、アルバム『Can U Handle The Funk』の中盤に配置され、アルバム全体の流れにおいて重要な役割を果たしている。「22’s」「Late Night」「Be Like That」「Rather」という流れの後に登場するこの楽曲は、アルバムの核心部分として、Dezzy Hollowのアイデンティティを最も明確に示している。
続く「Bullshittin’」「Won’t Do」「Street Lights」「Game」そして「Gangsta Love」へと続く後半部分への橋渡しとしても機能し、アルバム全体の物語性を高めている。
コミュニティの声を代弁する責任
「Reporting Live from Oceanside」は、単にオーシャンサイドの日常を描写するだけでなく、コミュニティの声を代弁する責任を担っている。Dezzy Hollowは、地元の若者たちの希望となり、彼らに「自分たちの物語も価値がある」というメッセージを送り続けている。
青少年支援プログラム「Resilience」への訪問や、地元でのライブパフォーマンスを通じて、彼は音楽を通じたコミュニティへの貢献を続けている。「Reporting Live from Oceanside」は、そんな彼の活動の集大成とも言える作品だ。
未来へ続く実況中継
2020年にリリースされた「Reporting Live from Oceanside」は、その後のDezzy Hollowの音楽的発展の重要な礎となった。2022年の『One Nation Under The Funk』、2025年の『OCEANSIDE』へと続く彼の作品群は、この楽曲で示された地元への愛と誇りを、さらに深く掘り下げている。
Babee LocとJessica Duronとのコラボレーションが示したように、世代や性別を超えた協力関係こそが、地域の音楽シーンを豊かにする。この楽曲は、オーシャンサイドという一つの街から始まった音楽的な実況中継が、世界中のリスナーの心に響く普遍的なメッセージとなることを証明している。
「Reporting Live from Oceanside」は、地元への愛、コミュニティの絆、そして音楽の力を信じる全ての人々への讃歌である。この実況中継は、これからも続いていく。オーシャンサイドの街角から、世界へ向けて、音楽という共通言語で物語が語り継がれていくのだ。
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