イントロダクション
2020年11月に公開された「OUTLAW」は、埼玉・熊谷を拠点とする舐達麻のBADSAIKUSHと、フィリピン生まれのラッパーKENNY-Gによるコラボレーション楽曲です。GREEN ASSASSIN DOLLARがプロデュースしたこのトラックは、日本のアンダーグラウンドヒップホップシーンにおける重要な作品として、多くのファンに衝撃を与えました。
GREEN ASSASSIN DOLLAR
「OUTLAW」をプロデュースしたGREEN ASSASSIN DOLLARは、神奈川県相模原市出身の1985年生まれのビートメイカーです。元々はNaoto Taguchi名義で大学時代にDJとして活動していましたが、ある日突然「ビートを作りたい」と覚醒し、ビート制作を開始しました。
舐達麻との出会いは、BADSAIKUSHが彼のアルバムを気に入り、SNSでメッセージを送ったことから始まりました。2018年に舐達麻の楽曲「FLOATIN’」をプロデュースし、翌2019年のアルバム「GODBREATH BUDDHACESS」では8曲を手がけました。彼のビートは「余裕で日本で一番のトラックメイカー」とBADSAIKUSHから絶賛されています。
楽曲「OUTLAW」の分析
音楽的特徴
「OUTLAW」は、GREEN ASSASSIN DOLLARが手がけたトラックに、BADSAIKUSHのラップとKENNY-Gのフックが絶妙に融合した作品です。楽曲のタイトル通り、アウトローな世界観を描いており、両アーティストの生々しい体験とストリートカルチャーへの深い理解が反映されています。
プロダクション面では、GREEN ASSASSIN DOLLARの特徴であるメロウで感情的なビートが、BADSAIKUSHの冷静で距離感のあるラップスタイルと、KENNY-Gのメロディアスな歌声を見事に引き立てています。
リリカルコンテンツ
歌詞には、「LoopするBeatsの様に繰り返す日々でGrowUp / ひたすらにSpit Rhymeに混じる煙が充満」といった、彼らの日常とヒップホップへの取り組みが描かれています。大麻カルチャーへの言及も含まれており、「Kushをクラッシュして / 裏巻きMakeするClassic」など、リアルなストリート体験に基づいたリリックが特徴的です。
BADSAIKUSHのバースでは、彼特有の具体的な情景描写と、「現実が結果 時はあからさま / 必要なもの以外全部逆さま」といった哲学的な内省が見られます。これは少年院で村上龍の「限りなく透明に近いブルー」を読んで感銘を受けたという彼の文学的素養の表れでもあります。
文化的インパクトと論争
リリースと反響
「OUTLAW」のミュージックビデオは当初Instagramで断片的に公開され、正式リリースが待ち望まれていました。2020年11月の正式公開後、楽曲は大きな反響を呼びましたが、後にYouTubeから削除されるという事態も発生しました。
アーティスト間の関係性
興味深いことに、この楽曲は後にBADSAIKUSHとKENNY-G間の不仲説の原因ともなりました。しかし、阿修羅MICが仲裁に入り、現在では和解していると報告されています。このような人間関係の複雑さも、アンダーグラウンドヒップホップシーンの現実を反映しています。
ストリーミング配信の課題
「OUTLAW」がApple MusicやSpotifyなどの主要ストリーミングプラットフォームで配信されていないことも話題となりました。これは楽曲の権利関係や、アーティスト間の関係性が影響している可能性があります。
日本のアンダーグラウンドヒップホップにおける意義
真正性の追求
「OUTLAW」は、日本のヒップホップシーンにおいて「リアル」を追求する動きの代表的作品です。舐達麻とKENNY-Gが持つそれぞれの背景—前者の犯罪歴と後輩の死という重い体験、後者の移民としてのアイデンティティ—が楽曲に深みを与えています。
プロダクションの革新
GREEN ASSASSIN DOLLARのプロデュースワークは、従来の日本語ラップとは一線を画するサウンドを提供しました。彼のビートは海外のリスナーからも高く評価されており、日本のビートメイカーとしては異例の国際的認知を獲得しています。
ジャンルの境界を超えて
KENNY-Gが日本語ラップにタガログ語を織り交ぜるスタイルは、日本のヒップホップの多様性を示す重要な要素です。これは、日本という多文化社会におけるヒップホップの可能性を拡張する試みとしても評価できます。
楽曲制作の舞台裏
アーティスト間の化学反応
BADSAIKUSHのビート選びへの偏執的なこだわりと、GREEN ASSASSIN DOLLARの天才的なビートメイキング能力、そしてKENNY-Gの独特な歌声が組み合わさることで、「OUTLAW」という唯一無二の作品が誕生しました。
技術的側面
GREEN ASSASSIN DOLLARはRolandのSP-404SXを使用してビート制作を行っており、楽曲のミュージックビデオでも彼がサンプラーを操作する様子が確認できます。この機材選択も、楽曲の温かみのあるローファイサウンドに貢献しています。
まとめ
「OUTLAW」は、単なるコラボレーション楽曲を超えて、日本のアンダーグラウンドヒップホップシーンの現在を象徴する作品として位置づけられます。舐達麻のBADSAIKUSH、KENNY-G、そしてGREEN ASSASSIN DOLLARという3人の才能が結集することで、従来の日本語ラップの枠を超えた新しい表現が実現されました。
楽曲に込められた生々しいリアリティと、それを支える高度なプロダクションワークは、日本のヒップホップが世界水準のクオリティに達していることを証明しています。配信プラットフォームでの入手困難さや、アーティスト間の関係性の複雑さも含めて、この楽曲はアンダーグラウンドヒップホップの本質を体現した重要な作品として記録されるでしょう。
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