懲役中も進化し続けるラッパーの最新作
服役中ながらも音楽活動を続ける日本のヒップホップシーンの重要人物・NORIKIYOが5月19日に新曲「Yeah Yeah Yeah」をリリースした。同時に公開されたミュージックビデオは、彼の長年のプロデューサーBACHLOGICとタッグを組んだ作品で、彼の逮捕前から完成していたという。NORIKIYOは昨年6月、根拠の乏しい容疑で逮捕されて以来、獄中での音楽活動を通じて日本のヒップホップシーンに新たな歴史を刻み続けている。
獄中からの新作リリースという異例の状況は、日本の音楽シーンにおいても極めて珍しいケースだが、NORIKIYOの創造性と表現への情熱は、物理的な拘束をも超越するものであることを証明している。それは彼の楽曲が単なる音楽作品にとどまらず、彼自身の人生哲学の表現でもあることを如実に物語っている。
王者の貫禄と新鮮さを兼ね備えたMV
Agro Creativeが手掛けたMVは、レトロでビンテージ感あふれる映像美が特徴的だ。セピア調の色彩処理やフィルムグレインを効果的に使用した映像技術は、現代のデジタル感覚とは一線を画す独特の質感を生み出している。クラシックな雰囲気の中で繰り広げられるNORIKIYOのパフォーマンスは、彼の持つ独特の存在感を際立たせている。「Yeah Yeah Yeah」というシンプルなタイトルながら、映像は複層的な表現で彼の世界観を表現している。
ミュージックビデオの中でNORIKIYOが見せる自信に満ちた表情と身振りは、どんな状況でも自分は王者であるという揺るぎない信念を表している。映像の随所に散りばめられた象徴的なカットは、彼の内面世界と外部環境との対峙を視覚的に表現しており、視聴者に多くの解釈の余地を与えている。
楽曲のリズミカルな展開に合わせて巧みに編集された映像は、NORIKIYOの言葉の一つ一つに重みを持たせている。逆境にも関わらず前向きなエネルギーに満ちた姿勢は、長年NORIKIYOを支持するファンにとっても、新たな発見があるはずだ。
歌詞に込められた境界を超える哲学

曲中で「例え今日が晴れでも雨でも良い天気(転機)だ」と歌うNORIKIYOの言葉には、状況をどう捉えるかは自分次第だという彼の哲学が反映されている。また「どこに居ようが俺は王様だし俺が居る場所が俺の世界の首都だ」という一節からは、物理的な制約を超えて自分の内面に真の自由を見出す彼の精神性が伝わってくる。
このような境界を超越する思想は、現在の彼の状況と重ね合わせると一層深い意味を持つ。社会的な制約や固定観念にとらわれず、自分自身の価値観で世界を構築していく姿勢は、多くのリスナーに共感と勇気を与えるメッセージとなっている。
11thアルバム『Cookin’ Selfish』発表も
このシングルリリースと同時に、NORIKIYOは11作目となるオリジナルアルバム『Cookin’ Selfish』の発売も発表した。6月20日にリリース予定の同アルバムは、一昨年の『犯行声明』に続く新作となる。前作が彼の苦悩と社会への問いかけを表現した作品だったのに対し、今作はより内省的で自己肯定的なテーマが展開されるのではないかと期待が高まる。
現在NORIKIYOは収容人数約1万人規模の出所後ソロライブに向けたクラウドファンディングを実施中で、その返礼品の一つとして本アルバムも位置付けられている。さらに興味深いのは、彼が刑務所で現在勤めている工場の囚人たちと結成したラップグループ・O.P.S.F.の1stアルバム『THE REAL PRISON REPORT』も返礼品として予定されていることだ。これらの活動は単なる音楽制作の枠を超え、刑務所という環境でのクリエイティブな協働の可能性を提示している。
音楽の力を証明し続けるNORIKIYO
1979年12月12日生まれの神奈川県相模原市出身のNORIKIYOは、1999年にSD JUNKSTAを結成して以来、日本のヒップホップシーンの第一線で活動を続けてきた。BRON-KとTKCと共に2001年に正式に確立したSD JUNKSTAのリーダーとして活躍する一方、ソロアーティストとしての道を切り開いたのは、SEEDAとDJ ISSOとのコラボレーション「花と雨」だった。
2007年にリリースされた初のソロアルバム『EXIT』は批評家から高い評価を受け、THE SOURCE誌では2007年の日本のラップベスト3位にランクインし、年間最優秀アルバム賞を獲得した。2011年には彼の代表作とも言える『メランコリック現代』をリリース。このアルバムはZAKAIによって日本でリリースされたヒップホップアルバム500選に選ばれるなど、日本ヒップホップ史に残る名盤として認知されている。
BACHLOGICとの長年のコラボレーションは彼の音楽スタイルの核心を形成し、詩的かつ社会的なリリックは日本のヒップホップシーンに確固たる足跡を残している。近年では2023年にリリースした『犯行声明』で自身の経験した不当な扱いや真実への思いを表現し、多くのリスナーの心を揺さぶった。
表現の自由と創造性の象徴として
「Yeah Yeah Yeah」は、どんな環境でも音楽の力で自分を表現し続けるNORIKIYOの姿勢を象徴する作品だ。今作がリリースされた背景には、彼が昨月Netflixで世界配信が始まったABEMAオリジナルドラマ「東京都警視庁麻薬取締部 MOGURA」の主題歌「窓明かりの雨」を提供するなど、服役中にも関わらず多方面で活躍していることも注目に値する。
NORIKIYOの音楽活動は単に商業的な成功を超え、表現の自由と創造性の象徴として多くのアーティストやリスナーに影響を与え続けている。彼が切り開いてきた道は、困難な状況にあっても自分らしさを失わず、むしろその制約を創造の源泉へと変換する可能性を示している。
この新曲「Yeah Yeah Yeah」とミュージックビデオは、そんな彼の精神性と哲学が凝縮された一作と言えるだろう。6月のアルバムリリースと、それに続く活動にも期待が高まる。
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