アーティスト紹介:リアルなストリートから生まれた才能

オーシャンサイド(カリフォルニア州)出身のラッパー、Bishop Snowが2024年6月26日にリリースした「Party In The Hood」は、西海岸のG-funkサウンドを現代に蘇らせた注目の一曲です。リリースからわずか数ヶ月で急速に人気を集め、ヒップホップファンの間で「本物のG-funk」として話題になっています。
Bishop Snowは2021年から本格的な音楽活動を開始し、「When I’m Gone」「The Truth」「Raised In The Streets」などのシングルで着実にファンベースを拡大してきました。彼の音楽スタイルは90年代のウェストコーストヒップホップを強く意識しており、Dr. DreやIce Cubeなどの影響を色濃く感じさせます。特にリリックの内容やフロウの特徴は、Ice Cubeを彷彿とさせるという評価も多く見られます。
元々はトゥエンティナイン・パームズという小さな砂漠の町で生まれ、生後3ヶ月でオーシャンサイドに移り住んだBishop Snowは、幼い頃から多様な音楽に囲まれて育ちました。彼の母親Deborah Snowは80年代にミュージシャンとしてツアーを行なっていた経験があり、彼の音楽的ルーツに大きな影響を与えたといわれています。母親は特に80年代のポップやロックの大ファンで、その影響から彼も若い頃から音楽に対する深い理解を培ってきました。
しかし、Bishop Snowが本格的に音楽キャリアを始めたのは2021年のことです。それまでの人生で様々な困難や誘惑と向き合ってきた彼は、自身の言葉によれば「あまりにも行き過ぎたライフスタイル」から抜け出す必要性を感じ、音楽への情熱を生かす道を選びました。「悪い決断をして街をうろつき回る人生の後、今は一周回って夢を追いかけ、物事を実現させようとしている」と彼は語っています。
「Party In The Hood」:G-funkの真髄を捉えた逸品

「Party In The Hood」は彼の最新アルバム「Mission Ave II」に収録されている楽曲で、まさに90年代中期のG-funkサウンドを完璧に再現しています。キャッチーなリフレインと、クラップトラックや控えめながらも存在感のあるベースライン、そして90年代を象徴する「ギャングスタ・ワーム」と呼ばれるシンセサウンドを取り入れた典型的なウェストコースト・サウンドが特徴です。
楽曲の制作には、Alex Soriaがソングライターとして携わっており、演奏時間がコンパクトながらも、G-funkの持つグルーヴ感を十分に堪能できる仕上がりとなっています。
この曲では、Bishop Snowならではの力強くも流麗なフロウと共に、ストリートライフの様子や仲間との時間、そして「フッド(地元の地域)」でのパーティーシーンを生き生きと描写しています。彼の音楽の最大の特徴は、現代的なトラップやマンブルラップなどのトレンドに流されることなく、90年代ミッドのウェストコースト・ヒップホップのエッセンスに忠実であることです。
「There’s a party in the hood and it’s goin’ up」というフックを中心に展開される楽曲は、クラブでの一夜や友人たちとの交流を描きつつも、その根底にはオーシャンサイドの地元愛が感じられる内容となっています。
音楽スタイルの確立とインスピレーション源

Bishop Snowは、自身の音楽スタイルを確立するまでに試行錯誤の時期がありました。彼のデビューアルバム「Lord, Forgive Me」(2022年)から始まる初期の作品では、様々なウェストコーストスタイルと現代的な要素を融合させつつ、自分の音楽的アイデンティティを模索していました。
転機となったのは、同じくオーシャンサイド出身のラッパー、Dezzy Hollowとの出会いでした。Hollowからのアドバイスを受け、Bishop Snowはより純粋なG-funkスタイルに深く傾倒するようになりました。「G-funkとギャングスタラップは同じものでもあり、完全に異なるものでもある」と理解を深めた彼は、Dr. Dreのサウンドを彷彿とさせるビートを好み、Death Rowレコードの黄金期を思わせるサウンドを追求し始めました。
現在のBishop Snowのサウンド作りにおいて重要な役割を果たしているのが、ロサンゼルスのプロデューサーDe’Laとの協業です。De’Laは多くのアーティストと仕事をしてきた経験豊富なプロデューサーで、Bishop SnowはLAでの4時間のスタジオセッションで可能な限り多くのビートを確保し、共同で創造的なプロダクションを行っています。「どのようなサウンドや楽器が適切かを一緒に決め、そこから作業を進める」と彼は制作プロセスを説明しています。
「Mission Ave II」:ウェストコーストサウンドの現代的解釈

「Party In The Hood」が収録されている「Mission Ave II」は、Bishop Snowの2024年リリースの最新アルバムです。このアルバムでは90年代中期のウェストコーストサウンドを忠実に再現することに注力しており、特に「These Days」と「Party In The Hood」の2曲でその特徴が顕著に表れています。
アルバムタイトルの「Mission Ave」はオーシャンサイドの主要道路の名前で、彼の地元への強い帰属意識を表しています。「II」と名付けられた通り、このアルバムは以前のプロジェクトの続編として位置づけられています。
Bishop Snowの音楽の注目すべき特徴の一つは、彼が常に友人や家族、そしてクルー(仲間たち)と共に活動している点です。彼の楽曲やミュージックビデオの背景には、カーミート(車の集会)、バックヤードパーティー、キックバック(くつろいだ集まり)など、彼の日常生活の一部が描かれています。彼は自身のコミュニティの子供たちと時間を過ごしたり、いとこたちを作品に登場させたりする姿もよく見られ、「ハード」なイメージの裏にある人間味あふれる一面も魅力となっています。
アルバム全体を通して、DoggyStyleeee、D-Boy 223、Ivery Da Goddess、MC BXB、YeloHillなど多くのフィーチャリングアーティストが参加しており、多様なボーカルパレットで単調さを巧みに回避しています。特に「No Hitter」ではDoggyStyleeeeが鋭いエッジを効かせた高速フロウを披露し、「Still Around」ではD-Boy 223がOutkastのBig Boiを思わせるデリバリーで存在感を示しています。
また「The West」では、フィーチャリングアーティストたちが主役級の活躍を見せ、特にIvery Da Goddessのバースはアルバム全体のエトスを見事に表現しているという評価を得ています。MC BXBは非常にユニークなスタイルでバーではなくループのようにラップし、YeloHillは力強いフィニッシュで曲を締めくくっています。
アルバムの後半は、「Stand on Biz」と「Stack It Up」という2つの内省的な楽曲で締めくくられており、困難な時期や挑戦を乗り越えることについての考察が示されています。これらの曲は、多層的な理解をもたらす冷静な視点をリスナーに提供しています。
Bishop Snowの特徴:リアリティとコミュニティへの貢献

Bishop Snowの最大の魅力は、彼の「リアル」さにあります。彼はウェストコーストG-funkの伝統に深く根ざしながらも、単なる観察者としてではなく、その文化に深く埋め込まれ、それによって形作られた人物として音楽を制作しています。彼のアルバム全体に感じられるテクスチャーの豊かさは、彼自身がコミュニティのテクスチャーによって形作られていることに起因しています。
彼の音楽は「執拗にノスタルジックでありながら、驚くほど新鮮」と評されており、カリフォルニアの純金のように純粋なウェストコーストサウンドに沿っているのが特徴です。2022年以降、Bishop Snowは驚異的なペースで音楽をリリースしており、2022年には2枚のアルバムと1枚のEP、2023年には2枚のアルバムをリリースしています。
重要なのは、Bishop Snowが単独で成功したわけではなく、多くの仲間たちの協力に支えられている点です。彼は「村全体で子供を育てるのと同じように、音楽キャリア発展にも村が必要」という考えを持ち、自分の成功を支えてくれた人々への感謝の気持ちを常に表明しています。「一緒に仕事をしてきた全ての人々に感謝している。彼らは今や皆、私の素晴らしい友人であり、素晴らしいアーティストだと思っている」と彼は語っています。
日本のリスナーへ:なぜBishop Snowに注目すべきか

日本のヒップホップファンにとって、Bishop Snowの音楽は非常に興味深い存在となるでしょう。日本では90年代のウェストコーストヒップホップが根強い人気を持っており、G-funkサウンドへの親和性も高いと言えます。
特に「Party In The Hood」は、日本の夏のプレイリストにぴったりのトラックです。キャッチーなリフレインと心地よいグルーヴは、言語の壁を超えて楽しめる普遍的な魅力を持っています。また、音楽的にはG-funkの伝統を踏襲しながらも、現代的なプロダクションの質の高さも兼ね備えており、新旧のヒップホップファンを満足させる一曲となっています。
Bishop Snowのようなアンダーグラウンドで活躍するアーティストに注目することで、主流メディアでは紹介されにくい本物のストリートカルチャーや、アメリカ西海岸の現在の音楽シーンへの理解も深まるでしょう。彼の音楽は単なるノスタルジアを超え、伝統的なサウンドを現代に再解釈する試みとしても評価できます。
まとめ:ストリートから世界へ
Bishop Snowは、現代のヒップホップシーンにおいて、往年のウェストコーストG-funkサウンドを真摯に追求する数少ないアーティストの一人です。彼の音楽は「ノスタルジックでありながら驚くほど新鮮」と評されており、カリフォルニアのストリートカルチャーに深く根ざしています。
特に「Party In The Hood」は、そんな彼の音楽スタイルを象徴する一曲として、KAZUNリスナーの皆さんにもぜひチェックしていただきたい楽曲です。90年代のG-funkを愛する方はもちろん、現代のヒップホップファンにとっても新鮮な発見となるでしょう。
Bishop Snowの今後の活動からも目が離せません。彼のInstagramアカウント(@bishopsnow_)では30万人以上のフォロワーを獲得しており、YouTubeでのミュージックビデオ再生回数も増加を続けています。彼の曲「The Truth」のミュージックビデオは40万回以上の視聴回数を記録し、ファン層の拡大を示しています。
※この記事は2025年5月18日時点の情報に基づいて作成されています
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